04 / FICTION

SLENDER IV.com / 書き下ろし官能小説

サービスエリアで何度も目が合った男と、同じホテルに泊まっていた

レビュー作品とは独立した短編小説です。

創作であること

この物語はレビュー記事と組み合わせた独立小説です。レビュー対象作品からの着想や、出演者本人の心情・実際の出来事・固有場面を示すものではありません。

この小説は、作者自身のアイデアと構想をもとに、AIの支援を受けながら文章化・推敲しています。

WRITTEN FOR SLENDER IV.com

金曜の夜から車を走らせて、土曜の朝。 東京を出てから二つ目のサービスエリアで、その男を最初に見かけた。

軽くウェーブのかかった短髪に、洗いざらしのリネンシャツ。派手さはないけれど、清潔感があって、肩の力が抜けた佇まいがなんとなく目を引いた。好みのタイプだった。

普段の東京なら、街中でどんなに好みの男を見かけても、視線を合わせたりしない。無用なトラブルはごめんだし、なにより自意識過剰だと思われたくない。 けれど、ここは高速道路の上だ。見知らぬナンバーの車がひしめくパーキングエリアで、旅先という免罪符がある。どうせ二度と会わない他人だ。

スターバックスの列に並んでいるとき、ふと視線がぶつかった。 私はすぐに目を逸らさなかった。 まっすぐに相手の瞳を二秒だけ見つめ、それから小さく口角を上げて、ふいと横を向いた。

ほんの気まぐれ。女の小さな悪戯心だった。

ところが、その二時間後、山梨を越えた先のパーキングエリアの自販機前で、また彼と出くわした。 缶コーヒーを手に持った彼と、目が合う。 彼は一瞬だけ「あれ?」という顔をして、それから私の顔をじっと見た。 私はまた同じことをした。二秒見つめて、目を細めてから逸らす。 自分でも何をやっているんだろうと思ったけれど、心臓がトクンと跳ねる感覚が面白かった。

三度目は、諏訪湖を見下ろす大きなサービスエリアだった。 一緒に旅行している聡美とソフトクリームを食べながら歩いた広場で、少し離れた喫煙所の柵に寄りかかっている彼を見つけた。 彼もすぐに私に気づいた。今度は向こうから、呆れたような、でも面白がるような微苦笑を返してきた。 声は交わさない。名前も知らない。けれど、高速道路を同じペースで西へ向かいながら、私たちは確実に「視線の共犯」になっていた。

「どうしたの? なんか楽しそう」 隣でソフトクリームを舐めていた聡美が不思議そうに私を覗き込んできた。 「ううん、なんでもない。いい天気だねって思って」 私は何食わぬ顔で笑ってごまかした。

***

まさか、同じ温泉宿に泊まっているとは思わなかった。

夕方、木造の落ち着いたロビーにチェックインしたとき、フロントの奥で手続きをしている彼の背中が見えた。まさかね、と自分を笑った。けれど夕食を終え、大浴場の温泉に浸かって部屋へ戻る途中、薄暗い本館の渡り廊下でばったり鉢合わせた。

お互いに、昼間の私服ではない。 湯上がりの、紺色の浴衣姿だった。

「……っ」 濡れた髪を軽くまとめただけの無防備な姿を見られた気がして、私は咄嗟に目を逸らした。昼間の悪戯っぽい余裕なんてどこかへ吹き飛んで、ただ気まずかった。 通り過ぎようとした瞬間、低く落ち着いた声が降ってきた。

「今日、何回か会ってますよね」

足が止まった。 見上げると、彼が困ったように笑いながらこちらを見ていた。近くで見ると、昼間の印象よりもずっと背が高い。湯上がりのせいか、首元から微かに石鹸のいい匂いがした。

「……あ、やっぱり」 私は観念して笑った。「気のせいじゃなかったんですね」 「三回も目が合えば、流石に覚えますよ。諏訪湖でもいましたよね」 「そっちこそ。飛ばしすぎじゃないですか? ずっと追いつかれてた」

他愛のない答え合わせをしているうちに、不思議と緊張が解けていった。 部屋では、聡美が「露天風呂もう一回入ってくるから、先に部屋でゴロゴロしてていいよ」と言って出ていったばかりだ。部屋の鍵は私の手元にある。聡美が戻ってくるまで、少なくとも三十分から四十分はある。

「あの、自販機ってどっちにあるか知ってます?」 彼が廊下の奥を指さして言った。 「本館の奥にありますよ。……案内しましょうか」 口から出た言葉は、自分でも驚くほど自然だった。

二人で並んで歩く。足音を吸い込むような毛足の短い絨毯の上を、スリッパの擦れる音だけが微かに響く。 客室の並ぶエリアを通り過ぎ、連絡通路を渡ると、宴会フロアに出た。 夜の十時を回り、宴会はとっくに終わっている。天井の蛍光灯はすべて消され、壁の下部にある緑色の非常口誘導灯だけが、薄暗い廊下をぼんやりと照らしていた。

シーンと静まり返った空間に、空調の低い唸りだけが低周波のように沈んでいる。 大人同士だ。この静けさと薄暗がりが何を意味しているか、分からないはずがなかった。

自販機コーナーの脇に、宴会場の入口を塞ぐ厚手のパーテーションが置かれていた。その向こう側は完全に照明の届かない、濃い影の溜まり場になっている。

「ここ……」 彼が立ち止まり、パーテーションの隙間を見つめた。 「誰か来たらまずいよ」 私が言うと、彼が振り返り、悪戯っぽく眉を下げた。 「誰も来ないよ。もう宴会終わってるし」 そう言って私の手首をそっと取った。 断る理由は、どこにも見当たらなかった。

***

パーテーションの向こう側は、非常灯の緑の光さえほとんど届かない漆黒の死角だった。壁際に置かれた予備のソファの輪郭が、かろうじて見えるくらい。

背中に壁の冷たいクロスが触れた瞬間、彼の身体が正面から重なってきた。 浴衣の薄い木綿越しに、男の熱い体温がダイレクトに伝わってくる。

「……ん」

最初のキスは、驚くほど深かった。 昼間の爽やかな印象とはまるで違う、容赦のない熱さ。唇を割り、舌が滑り込んできた瞬間、私の喉の奥から小さな声が零れた。 彼の手が私の腰を引き寄せ、帯の上を撫でる。 浴衣の胸元に彼の手が滑り込んできたとき、私は小さく息を呑んで、その手首を上から押さえた。

「ちょっと、ここじゃ嫌……」

小さく笑いながら囁いたけれど、それが本気の拒絶ではないことくらい、彼にはとっくに筒抜けだった。彼の手は止まらず、帯の結び目を器用に緩めていく。木綿の擦れる乾いた音が、静寂の中でやけに大きく聞こえた。

「声、出さないでね」 耳元で囁かれ、首筋に熱い吐息が吹きかかる。 指先が襟元から滑り込み、私の鎖骨をなぞって、胸の下へ向かった。 冷たい指先の感触に肌が粟立つ。けれどすぐに掌の熱が追いついてきて、ふくらみの下側を掬い上げるように撫でた。

その時だった。

――チーン。

遠くのエレベーターホールから、甲高い到着音が響いた。 続いて、重い扉が開く音。

「っ……!」

私たちは同時に、石のように動きを止めた。 彼の指は、ちょうど私の胸の先端のすぐ下でピタッと静止している。 私は彼の首に腕を絡めたまま、彼の胸板に額を押し当て、息を完全に殺した。 ペタ、ペタと、スリッパが絨毯を踏む足音が遠くで聞こえる。誰かがエレベーターから降りて、客室の方へ歩いていく音だ。

見つかったら一発で終わりだ。大人の女が、旅先で見知らぬ男と、深夜の宴会場のパーテーションの裏で浴衣をはだけさせているなんて。 心臓が破裂しそうなくらい激しく脈打っていた。 けれど、その恐怖と背徳感に比例するように、彼の指が触れている皮膚の一点が、カッと熱く痺れていく。

足音が完全に遠ざかり、静寂が戻った。

ふぅ、と彼が私の首筋に熱い息を吐き出した。 そして、止めていた指先を、ゆっくりと先端へと滑らせた。 親指と人差し指で、コリッと小さく抓まれる。

「あっ!……んっ……」

我慢しきれずに声が漏れ、私は慌てて自分の唇を噛んだ。 下腹の奥がキュッと収縮し、浴衣の裾の内側で、じわりと湿り気が広がるのが自分でも分かった。

「……あんな目配せするから」 彼が低く笑いながら、私の手を取って、自分の浴衣の前合わせへと導いた。 帯の奥、硬く熱を帯びたものが、布地越しにはっきりと掌に押し当てられる。

「……すごい」 思わず本音が零れた。昼間の涼しげな顔からは想像もつかないほど、熱く猛り立っていた。 私が躊躇いながらも指を絡めて握ると、彼は満足そうに喉を鳴らし、私の浴衣の裾を左右に割った。

夜の廊下の冷気が、露わになった私の太腿を撫でる。 その直後、彼の手が膝の裏から内腿を辿り、するすると上へ滑ってきた。 熱い指先が、ショーツの細い布地を押し除け、すでに濡れきっていた割れ目に触れる。

「ぁっ……」 腰が勝手に跳ねた。 彼の人差し指が、溢れ出た蜜をすくい取るように、入り口を円を描いて撫で回す。ぴち、と小さな水音が暗闇に爆ぜた。

――ガチャリ。

今度は、どこかの非常扉が開く重い金属音がした。

動きが、また完全に止まる。

彼の指先は、入り口を半分押し広げた位置で静止していた。 指を抜くこともせず、奥へ進めることもせず、ただそこに留まっている。 その静止が、狂いそうなほど焦れったかった。 肉体が勝手に、その侵入者を奥へ引き込もうとキュウキュウと締めつける。

「……動いたら、ばれる」 耳元で囁く彼自身の声も、微かに震えていた。 従業員の見回りだろうか。遠くの廊下をゆっくりと巡回する気配がする。 私たちは繋がった指の感触だけを共有しながら、ただ相手の荒い呼吸を胸で受け止めて耐えた。動けない数秒間が、まるで永遠のように長く感じられた。

やがて扉が閉まる音がする。

彼は最後まで待たなかった。 扉が閉まるか閉まらないかのタイミングで、指を奥深くまで、一気に沈められた。

「あっ……んんっ……!」 予想以上の深さに、爪先立ちの膝から力が抜けそうになる。 彼は指を抜き差しするのではなく、一番奥の敏感な天井を、指の腹でぐっと押し上げるように擦った。

「だめ、それ……っ、声出ちゃう……って…っ」 「声、出していいよ。俺が塞ぐから」

彼が覆いかぶさり、私の唇を塞いだ。 口移しに熱い吐息を流し込まれながら、下からは激しく指が蠢く。 頭の中が真っ白になって、立っていることすらおぼつかなくなった。

***

「脚、絡めて」

唇が離れた瞬間、低く命じられた。 私は言われるがままに片脚を持ち上げ、彼の腰に絡めつけた。 浴衣の裾は完全に腰の上まで捲れ上がり、冷たい壁と彼の硬い身体のあいだに挟まれる。

ショーツが片側にずらされ、熱く濡れきった私の入り口に、彼の先端が押し当てられた。 熱い亀頭が、溢れる蜜を押し広げながら、ゆっくりと割れ目を滑る。

「……お願い、はやく」 もうプライドも恥じらいもなかった。 聡美が戻ってくるまでの時間がないことなんて、この快楽の前にはどうでもよくなっていた。 私は自分の手で彼の手首を掴み、腰を引き寄せた。

彼が小さく息を吸い、腰をぐっと押し込んできた。

「あぁぁっ……! んっ……!」

先端が入り口を割り、みっしりと隙間なく肉壁を押し広げて侵入してくる。 熱いものが、お腹の芯まで届くような圧倒的な圧迫感。 全部入ってからも、彼は壁に手をつき、奥深くに埋めたまま動かなかった。 私の中が、異物の太さに驚いて勝手にきつく締め上げる。

「……ああ。めちゃくちゃ締まる」 彼が苦しげに呻き、私の腰を両手でしっかりと掴んだ。 そして、短いストロークで、下から突き上げるように動き始めた。

浅く引いて、一気に奥まで。 クチュ、と暗いフロアに濡れた音が響く。

「あっ、んっ……すごい、奥に当たる……ぁ…」

壁際での立位。逃げ場がどこにもない。 突かれるたびに背中が壁に打ちつけられ、その衝撃がダイレクトに快感へと変換される。 大きな声を出せないことが、さらに感覚を鋭敏に狂わせていた。 私は彼の首に必死にしがみつき、彼の肩口に顔を埋めた。

「んっ、んっ……はぁっ……!」 「静かに……でも、すごい濡れてる」 「だって……っ、こんなところ……はぁっ…」

彼のリズムが速くなる。 浴衣の帯が完全に解け、胸元がはだけて二人の汗ばんだ肌が密着する。 ペタペタと皮膚がぶつかり合う音と、衣の音が、静まり返った宴会フロアに溶けていく。

その時、廊下の向こうから、複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。

酔客の笑い声。 「二次会どこ行く?」「自販機で酒買って部屋行こうぜ」

――心臓が凍りついた。

彼が突き上げる腰をピタリと止めた。 奥深くに突き刺さったまま、完全に停止する。

二人の息が荒い。 「……んんん……っ」 漏れそうになる私の声を、彼が自分の手のひらで塞いだ。 自販機コーナーは、パーテーションのすぐ向こう側だ。 薄い仕切り一枚を隔てたすぐそこで、男たちの話し声と、小銭の落ちるガチャンという音が響いている。

(見られたら……どうすれば…)

恐怖で背筋が粟立つ。 けれど、繋がったままの彼の存在は、恐怖を煽るようにドクドクと熱く脈打っていた。 動いてはいけないのに、私の中が勝手に収縮を繰り返し、彼をぎゅうぎゅうと締めつけてしまう。

「……っ」 彼が息を呑み、苦悶の表情で目を閉じた。 私の手のひらを塞ぐ彼の手にも、ギリギリと力が入る。 男たちが缶ビールを取り出し、笑いながら客室へ戻っていく足音が、絨毯を遠ざかっていく。

足音が完全に消えた、その瞬間だった。

彼が私の手を口元から離し、飢えた獣のように激しく腰を打ちつけてきた。

「あっ、だめ、それっ……! んぁっ、あぁっ!」 もう声を殺しきれなかった。 私は彼の肩口に思い切り歯を立て、漏れ出る声を噛み殺した。 ガツン、ガツンと壁越しに伝わる暴力的なまでの快感。 奥を抉るような角度で突き上げられるたび、下腹の奥が熱く煮えたぎり、足の指先がピーンと丸まった。

「い、く……っ、わたし、もう……っ!」 「ん……っ、俺も……っ!」

激しい連続のストロークの中、彼が腰をぐっと押し込み、最奥で止まった。 私の中が強烈に脈打ち、熱い波が何度も押し寄せて視界が白く弾けた。 その直後、彼は私から身を引き抜き、壁際で崩れ落ちそうになる私の身体を片手で抱き止めながら、自分の浴衣の裾の陰で、熱い吐息とともにすべてを吐き出し切った。

「はぁ……っ、はぁ……っ、く……」

崩れ落ちた私の膝を彼が支え、床の絨毯にゆっくりと座らせてくれる。 非常灯の薄い緑の光の下で、二人の荒い呼吸だけが、いつまでも重なっていた。

はだけた私の浴衣は肩から落ち、帯は完全に解け、下着はずれたまま濡れそぼっている。 彼の浴衣の前も大きく開き、汗ばんだ胸板が上下していた。

***

どれくらいそうしていただろう。 遠くで、再びエレベーターの「チーン」という音が鳴った。

その音で、私たちは弾かれたように現実に引き戻された。

「……まずいね」 彼が息を整えながら、ふっと笑った。 「うん、戻らなきゃ」

私たちは慌てて立ち上がり、浴衣を合わせ、帯を結び直した。 手櫛で乱れた髪を整え、お互いの姿を見合わせる。 さっきまであんなに激しく貪り合っていたのが嘘のように、整えられた浴衣姿の彼を見て、なんだか急に可笑しさが込み上げてきた。

「ふふっ」 「何?」 「ううん。……思ってたより、ずっとすごかったなって」 私がそう言うと、彼は照れたように頭を掻いた。

パーテーションの横をすり抜け、静かな廊下へ戻る。 歩きながら、私は何気ない調子を装って尋ねた。

「そういえば、どこから来たんですか?」

彼が口にしたのは、東京からも、私の地元からも、新幹線や飛行機を使わなければ絶対に辿り着けないような、遠く離れた北の街だった。

「……そっか」

口から出たのは、それだけだった。 連絡先を聞こうとは思わなかった。彼も、私の名前すら聞いてこなかった。 大人同士だ。旅先の一夜の熱狂を、現実に持ち帰ってはいけないことくらい、お互いに痛いほど分かっていた。

「じゃあ、ここで」 客室へ続くエレベーターの前で、彼が足を止めた。 「うん。おやすみなさい」 「おやすみ」

彼は一度だけ優しく微笑み、エレベーターへと乗り込んでいった。 扉が閉まり、金属の箱が上へと昇っていくのを、私はただ見送った。

部屋のドアを静かに開けると、テレビの音が微かに漏れていた。 ベッドの上でスマホを見ていた聡美が、顔を上げる。

「おかえりー。自販機あった? なんか時間かかってたじゃん」 「うん、ちょっとフロア迷っちゃって」

私は何食わぬ顔で笑いながら、手に持っていた冷たいお茶のペットボトルを掲げて見せた。 浴衣の裾の奥、内腿のあたりに残る熱い余韻を、誰にも知られないようにギュッと引き締めながら。

私たちは、高速道路の同じルートを走り、同じサービスエリアで目を合わせ、同じ宿の同じ時間に部屋を出た。 それだけの、二度と交わらない関係だった。