04 / FICTION

SLENDER IV.com / 書き下ろし官能小説

視線の温度

飲み会の夜、視線の先で見つけた自分

職場の飲み会で、ふだんより薄い服を選んだ美里。集まる視線のなかで、彼女は自分でも知らなかった欲望に触れていく。

創作であること

この物語は作品から着想を得た独立したフィクションです。出演者本人の心情や実際の出来事、レビュー対象の固有場面を示すものではありません。

この小説は、作者自身のアイデアと構想をもとに、AIの支援を受けながら文章化・推敲しています。

WRITTEN FOR SLENDER IV.com

美里は、会社の洗面所の鏡の前で身体を横に向けた。 薄いベージュのニットが、思った以上に身体の線を拾っている。 正面から見れば、それほどでもない。 首元は詰まっているし、丈だって短くない。派手な柄もない。会社の飲み会に着ていったところで、誰かに注意されるような服ではなかった。 けれど横を向くと、話が変わる。

「……ちょっとやりすぎたかな」 鏡の中の自分に、小さく笑った。 とはいえ、着替えるつもりはなかった。

美里には、人には言っていない小さな趣味がある。 男の視線を集めることだった。 胸元を大きく開けたり、露骨に脚を出したりするのは好きではない。 それではあまりに分かりやすすぎる。 そうではなく、一見普通なのに、よく見ると少しだけ目が離せなくなる服を選ぶ。 街を歩いていてすれ違った男が、一度通り過ぎてから振り返る。 電車で向かいに座った男が、スマートフォンから何度も目を上げる。 そういう瞬間を、美里は見逃さない。 もちろん気づいていないふりをする。 それが面白かった。

男が自分を見ている。 でも、自分がそれを知っていることを男は知らない。 その小さな優越感が好きだった。

今日も、そのつもりだった。 ただし。

居酒屋に到着して十分もしないうちに、美里は自分の計算が少し狂っていたことに気づいた。 視線が、多い。 そして長い。

乾杯のあと、上司と話しているときも。 料理を取ろうと少し身を乗り出したときも。 席を立って奥の人を通したときも。 何人かの男の視線が、分かりやすいほど身体についてくる。

いつもなら、その程度のことはむしろ楽しい。 ところが今日は、一人ではない。 右からも。 左からも。 正面からも。 普段なら自分から探しにいく視線が、放っておいても次々に刺さってくる。

美里はグラスを口に運びながら、内心で苦笑した。 ――ああ。 ――これは、ちょっと見せすぎた。

着替える前に鏡で見たときには気づかなかった。 会社の明るい照明より、居酒屋の少し暗い照明の方が、生地の薄さを妙に際立たせていた。 しかも座ると、立っているとき以上に身体の輪郭が出る。 なるほど。 これは見る。 自分だって男なら見るかもしれない。

そう思ったら、おかしくなった。 恥ずかしい。 でも、帰りたくはない。 むしろ今日は、どこまで見られるのだろうと思った。

美里は二杯目を注文した。 普段なら羽織る上着も、椅子の背に掛けたままにした。 男たちがいる方へ身体を向ける。 髪を片側に流す。 脚を組み替える。 全部、偶然のように。 自分から見せているとは絶対に悟られない程度に。

視線が動く。 それが分かるたび、美里の口元には薄く笑みが浮かんだ。 楽しい。 やっぱり、これは楽しい。

ところが三杯目の途中から、その感覚が少し変わってきた。 見られているだけなのに、妙に落ち着かない。 いつもなら、自分が男たちを転がしている気分でいられる。 今日は違った。 視線が集まりすぎている。 自分が仕掛けた遊びなのに、いつの間にか自分の方が煽られている。

何気なくグラスを持つ指にも。 髪をかき上げる仕草にも。 誰かが反応しているような気がする。 ――今日の私、そんなに?

そんなことを考え始めると、ますます意識してしまう。 身体のどこを見られているのか。 今、誰が見ているのか。 目が合う直前に逸らしたのは誰だったのか。 自分が酒に酔っているのか。 視線に酔っているのか。 だんだん分からなくなった。

一次会が終わり、店の外へ出た。 二次会へ向かう一団の最後尾を歩いていた美里は、靴のストラップがずれていることに気づいて、ビルの脇で足を止めた。

「先行ってて」 そう言ってしゃがみ込む。 少し火照っていた。 誰も見ていないと思った。 だから立ち上がったあと、壁にもたれたまま、無意識に自分の脚へ手を置いた。 ニット越しに散々浴びた視線を思い出す。 指先が太腿をゆっくり滑った。 ほんの一瞬だった。 自分でも何をしているのか気づいて、すぐに手を止めた。

そのときだった。

「へえ」 声がした。 美里は振り返った。

少し離れたところに蓮が立っていた。 同じ部署の男だった。 仕事はそれなりにできる。 人当たりもいい。 そして女性関係について、あまり評判が良くない。 本人も隠していない。

「……見た?」 美里が言った。

蓮は笑った。 「かなり」

「最悪」

「そう?」

「お願いだから黙ってて」

「いいよ」 即答だった。 その素直さが逆に怪しい。 美里は目を細めた。

「その顔、絶対なんか考えてるでしょ」

「考えてる」 蓮は悪びれなかった。 「でも別に、ネタにする気はないよ」

「じゃあ何」

蓮は少し近づいてきた。 「今日だけ遊ばない?」

美里は一瞬、言葉を失った。 「は?」

「明日から普通。同じ会社の人」

「軽いなあ」

「美里さんにだけは言われたくない気がする」

「どういう意味?」

「今日ずっと楽しんでたでしょ」

胸の奥を突かれた。 美里は笑顔のまま、蓮を見た。 「何を?」

「見られるの」

否定しようと思えばできた。 でも、つまらないと思った。 ここで真面目な女のふりをする方が、よほど格好悪い。

「……分かってたんだ」

「途中からね」

「いつから?」

「上着、絶対着ないなって思った辺り」

思わず笑ってしまった。 見抜かれていた。 それは少し悔しい。 でも嫌ではなかった。

「で?」 美里は聞いた。 「今日だけって?」

「今日だけ」

「会社では?」

「何もなかったことにする」

「干渉もしない?」

「しない」

「誰にも言わない?」

「言わない」

蓮は肩をすくめた。 「美里さんも俺に本気にならない。それなら平等でしょ」

「すごい自信」

「違う?」

美里は数秒考えた。 二次会の店へ向かう同僚たちの声は、もう遠くなっている。 普段の自分なら、ここで帰る。 男の視線を楽しむのと、その先へ行くのとは別の遊びだ。 そうやって線を引いてきた。 でも今日は、その線の上にずっと立っているような気分だった。 見られすぎた。 煽られすぎた。 そして少しだけ、自分でもどうなるのか見てみたくなっている。

美里は蓮を見上げた。 「今日だけね」

蓮が笑った。 「了解」

「あと、勘違いしないで」

「何を?」

「あなたが特別なんじゃないから」

「それ、今言う?」

「大事なところでしょ」

そう言って、美里は先に歩き始めた。

ホテルの部屋に入った瞬間、照明を落とした薄暗さが、昼間の視線とは違う熱を帯びて感じられた。 美里は窓の方へ歩き、カーテンを少しだけ開けた隙間から外の街灯を見るふりをした。実際は、自分の呼吸を整えていた。

蓮が背後から近づいてくる気配がする。 「まだ上着、着ないんだ」

「……うるさい」

美里が振り返ると、蓮はもう近くにいた。 目線が、自然とニットの上を滑る。居酒屋で浴びた無数の視線とは違う。一人の男の、はっきりと意図のある視線。それが肌に触れるように熱い。

「触らせてよ」

蓮の声は低く、冗談めいていたけれど、目は笑っていなかった。 美里は唇を噛んで、小さく息を吐いた。

「……今日だけ、だからね」

「分かってるって」

蓮の手が、美里の腰に回された。ニットの生地越しに、掌の熱が伝わる。指先が腰のくびれを探るように撫でると、美里の背中が微かに強ばった。 居酒屋で散々見られていた場所を、今度は直接触られている。

蓮は急がなかった。むしろ焦らされているように感じた。

まずはニットの裾に指をかけ、ゆっくりと引き上げる。生地が肌を擦る感触に、美里は小さく身をよじった。下着姿になった瞬間、部屋の空気が肌に絡みつく。

「……やっぱり、いい体してる」

蓮が呟く。視線が胸の谷間から腹部へ、そして太腿のラインへと落ちる。美里はそれを感じ取りながら、あえて目を逸らさなかった。見られることが、今日はずっと自分の遊びだった。ならば、最後までその延長でいようと思った。

蓮の唇が、まず鎖骨に落ちた。

熱い吐息が皮膚を這ったかと思うと、次の瞬間、首筋を強めに吸われる。歯が軽く皮膚に当たる感触に、美里の背筋がぴくりと震えた。彼女の指が無意識に蓮のシャツの前を掴み、布地を強く握りしめる。莲はそれに応えるように、もう片方の手で美里の背中を抱き寄せ、ブラジャーのホックを少し乱暴に外した。それを完全に取らないまま、莲の唇がそこに覆い被さった。歯が柔らかな蕾を掴み、右手が尻を掴む。痛みと快感が同時に走って、美里の喉から低い吐息が漏れた。彼女も負けじと莲の髪を掴み、自分から彼の唇に噛みつくように口づけを返した。

今度は右手が太ももを掴む。同時に舌が乳房の周りを這う。かと思えば、すでに硬く尖っていた先端に吸い付く。美里は歯を食いしばって声を殺そうとしたが、喉の奥から甘い吐息が漏れた。

「声、出していいよ」 蓮が耳元で囁く。 「もう誰も聞いてない」

その言葉が、妙に効いた。 美里は目を閉じ、自分から蓮の首に腕を回した。唇が重なる。最初は浅く、すぐに深く。舌が絡み合うたびに、下腹部が熱く疼いた。居酒屋で視線に煽られていたときの、あの落ち着かなさが、今ははっきりとした欲望に変わっている。

蓮にベッドへ導かれ、仰向けに倒される。 彼は美里の太腿をゆっくり開き、下着の端に指をかけた。布越しにすでに湿っている感触を確かめるように、一度、二度と撫でる。

「……こんなになってる」

「うるさい……」

「みんな見てたしな」

蓮が下着を下ろすと、冷たい空気が敏感な部分に触れた。次の瞬間、熱い舌がそこに這う。美里は思わずシーツを掴んだ。ゆっくりと、丁寧に、クリトリスを舌先で転がされる感触。居酒屋で脚を組み替えたとき、男たちの視線が集中していた場所を、今は一人の男が直接味わっている。

「あっ……んっ……」

声が漏れる。抑えても抑えきれない。蓮は浅い刺激を繰り返したあと、指を一本、ゆっくりと中へ入れた。湿った内壁がすぐに彼の指を締めつける。二本目が入ったとき、美里の背中がベッドに沈んだ。

「あ、気持ちいい……」

「ずっと我慢してたのか」

美里は答えられなかった。ただ、腰をわずかに動かして、指の動きに合わせてしまう。快感が積み重なるたび、昼間浴びた無数の視線がフラッシュバックする。見られていた。煽られていた。そして今、その延長で、体の奥を抉られている。

蓮が指を抜き、自分の硬くなったものを美里の入口に押し当てた。先端がぬるりと滑る感触に、美里は大きく息を吐いた。

「入れるよ」

「……ん」

蓮が腰を進める。ゆっくりと、しかし確実に、中へ沈んでいく。押し広げられる感覚に、美里は息を止めた。根元まで埋まった瞬間、二人とも味わうように熱を確かめ合った。

「……すごい締めつけてくる」

蓮の声が少し掠れている。美里は目を細め、彼の肩に爪を立てた。

「動いてよ……」

蓮は笑って、ゆっくりと腰を引き、深く沈めた。浅いストロークから始めて、徐々に速度を変える。美里の内側の敏感な部分を擦るたび、甘い電流が走る。

「あっ……そこ……もっと……」

声が自然と大きくなる。蓮は彼女の言葉に応えるように、腰の動きを速めた。美里の胸が上下し、乳首が空気に触れるたびに小さく震える。蓮は片方の手でその先端を摘み、軽く捻った。

「ん……!」

美里の体が大きく反った。内側が痙攣し、熱い蜜が溢れる。蓮は動きを止めず、彼女がイき終わるまで丁寧に突き続けた。余韻が残る中で、彼自身も限界に近づいているのが分かった。

「俺も……いい?」

「……うん」

美里が短く答えると、蓮は深く沈めたまま、一段深く突き、腹に出した。飛び散る感触が、はっきりと伝わってくる。美里は目を閉じ、その感触を受け入れながら、長く息を吐いた。

汗で湿った肌が、ゆっくりと冷えていく。

その夜、二人は恋人のような話をほとんどしなかった。 これからどうするとも聞かなかった。 美里にとっては、その方が気楽だった。

男の視線を楽しんでいたはずの一日が、いつの間にか思ってもいなかったところまで転がってしまった。 でも、不思議と後悔はなかった。 むしろ。 ――こんな日もあるんだ。 そんな程度の感覚だった。

夜が明ける前、美里はベッドを抜け出した。 蓮は眠そうな顔で時計を見る。

「帰るの?」

「うん」

「朝までいれば?」

「恋人みたいだから嫌」

「厳しいな」

「今日だけって言ったの、そっちでしょ」

美里は服を整え、鏡を見る。 昨日の夜と同じニット。 なのに今見ると、ずいぶん大胆な服に思えた。

「これ、やっぱり攻めすぎだったな」

蓮がベッドから言った。

「今さら?」

「うるさい」

美里は笑いながらバッグを持った。 ドアを開ける前に振り返る。

「会社で変な顔しないでよ」

「美里さんこそ」

「私は得意だから」

そう言って部屋を出た。

まだ暗い早朝の街を、一人で歩く。 冷たい空気に触れると、酔いが急に醒めてきた。 すると今度は、少しだけ不安になった。 本当に蓮は黙っているだろうか。 会社で顔を合わせたら気まずくならないだろうか。 そもそも自分は、何をやっていたのだろう。

美里は足を止めた。 数秒考える。 そして小さく息を吐いた。

「……まあ、いいか」

誰かに騙されたわけでもない。 酔って何も覚えていないわけでもない。 自分で服を選んだ。 自分で視線を楽しんだ。 自分で行くと決めた。 それなら、少しくらい困ることが起きても、自分で何とかすればいい。

美里はまた歩き出した。 駅のガラスに映った自分を見て、ニットの裾を少しだけ整える。 そのとき、向こうから歩いてきた男が、美里を一度見て通り過ぎた。 そして少し先で、もう一度振り返った。

美里は気づかないふりをした。 口元だけが、ほんの少し笑っていた。