SLENDER IV.com / 書き下ろし官能小説
失って手に入ったもの
作品から着想を得た、書き下ろし官能小説です。
レビュー対象とは別の人物・設定で書かれた、出演者本人とは無関係の書き下ろし成人フィクションです。
この物語は作品から着想を得た独立したフィクションです。出演者本人の心情や実際の出来事、レビュー対象の固有場面を示すものではありません。
この小説は、作者自身のアイデアと構想をもとに、AIの支援を受けながら文章化・推敲しています。
WRITTEN FOR SLENDER IV.com
美咲は、声が出そうになるたびに息を止めた。
身体の奥では、もっと近くに来てほしいと思っている。触れられるたびに、肩が跳ねそうになる。けれど、それを悟られるのが嫌だった。
だから、いつものように動かない。
指先に力を入れ、シーツを握る。唇から何か漏れそうになると、口を閉じる。
「……平気?」
彼が聞いた。
「うん」
「痛くない?」
「全然」
本当は、痛いどころではなかった。
彼が指先で浅い場所をなぞるだけで、身体の奥が熱く疼き、快感の波がせり上がってくる。そのたびに美咲は、喉元まで出かかった声を飲み込み、腰が跳ねそうになるのを強引に抑え込んだ。
昔からそうだった。
感じていることを知られるのが恥ずかしい。自分から求めているように見えるのも嫌だった。
普段の美咲は、自分がどう見えるかをよく考えていた。
身長は百五十センチそこそこ。胸も大きくない。誰もが振り返るような美人でもない。
ただ、脚は綺麗だった。
それは自分でも分かっている。
だからミニスカートをよく履いた。
露骨に色っぽいものではない。小柄な体型に似合う、少しカジュアルなもの。靴も、トップスも、それに合わせる。
自分には何が似合うか。
どこを見せれば魅力的に見えるか。
美咲はよく知っていた。
見せる自分は、自分で決める。
それが好きだった。
なのに、男と二人きりになった途端、身体は自分の言うことを聞かなくなる。
だから美咲は、それを隠した。
その夜も同じだった。
終わったあと、彼は美咲の隣で天井を見ながら言った。
「なんかさ」
「何?」
「最近、つまんないんだよな」
美咲は横を向いた。
「何が?」
「こういうの」
一瞬、何を言われているのか分からなかった。
「何しても反応同じじゃん」
「……そう?」
「美咲、別にしたくないんじゃない?」
胸の奥がざわついた。
違う。
そんなわけない。
むしろ逆だ。
でも、それを言うのはもっと恥ずかしかった。
だから美咲は笑った。
「別に普通でしょ」
「普通ねえ」
「何?」
「いや、いいけど」
その「いいけど」が妙に残った。
それから五日後。
彼から電話が来た。
『好きな人できた』
一瞬、聞き間違えたと思った。
「……へえ」
『だから、ごめん』
「何それ」
『ほんとごめん』
「別にいいよ」
自分でも驚くほど冷静な声だった。
『美咲?』
「じゃあね」
電話を切った。
泣いたのは、それからだった。
どうしても、あの夜の言葉が頭から離れなかった。
つまらない。
たぶん、あれだ。
あれが原因だ。
本当は違うかもしれない。
それでも美咲には、そう思えて仕方なかった。
*
「で、振られたんです」
美咲がそう言うと、向かいに座る菜々子はグラスを置いた。
菜々子はバイト先の三つ上の先輩だった。
仕事は早いし、気さくで、誰とでもそれなりに仲良くする。でも必要以上には踏み込まない。
その距離感が、美咲は好きだった。
「急だね」
「好きな人できたって」
「それはしんどいな」
「別に」
「別にって顔じゃないけど」
「……そうですか」
「そうだね」
菜々子はそれ以上慰めなかった。
そのことが、逆に美咲にはありがたかった。
二杯目を飲み終えた頃、美咲はぽつりと言った。
「たぶん、私にも原因あるんですよ」
「何したの?」
「何もしてない」
「ん?」
「何もしなかったんです」
菜々子が少し首を傾げた。
美咲はグラスを見た。
「そういう……夜のこと」
「ああ」
「私、つまんないらしいです」
「本人に言われたの?」
「最近つまんないって」
「ひどいな」
「でも、たぶん本当なんですよ」
「どうして?」
「私、あんまり反応しないから」
菜々子が黙った。
美咲はそれが気まずくなって、慌てて笑った。
「何の話してるんでしょうね、私」
「本当に反応しないの?」
美咲は顔を上げた。
「え?」
「感じないってこと?」
「……違います」
口にした瞬間、顔が熱くなった。
菜々子は何も言わない。
「むしろ……」
美咲は声を小さくした。
「感じやすいんです」
「じゃあ、なんで反応しないの?」
「我慢するから」
「なんで?」
美咲は困った。
「なんでって……恥ずかしいじゃないですか」
「何が?」
あまりに普通に聞かれて、美咲は一瞬言葉を失った。
「いや……声とか」
「うん」
「身体が動いたりとか」
「うん」
「自分からしてほしいとか言ったり」
菜々子はしばらく考えた。
「それ、恥ずかしいの?」
「恥ずかしいですよ」
「そうなんだ」
「え、恥ずかしくないんですか?」
「私は別に」
美咲は菜々子を見た。
馬鹿にしている様子はなかった。
本当に、何が問題なのか分かっていない顔だった。
「だって、気持ちいいんでしょう?」
その言葉に、美咲は妙な気持ちになった。
自分がずっと大問題だと思っていたことを、この人は何でもないことのように言う。
「菜々子さんは……そういうの、我慢しないんですか?」
「しないかな」
「全部?」
「全部かどうかは知らないけど」
菜々子が笑った。
「そんなに自分のこと監視しながらする方が疲れない?」
図星だった。
美咲は黙った。
「男の人って、やっぱりそういう方がいいんですかね」
「それは人によるんじゃない?」
「じゃあ女の人は?」
言ってから、美咲は自分でも変な質問だと思った。
菜々子は少しだけ目を細めた。
「女?」
「いや、なんとなく」
「私、女の人とも付き合ったことあるよ」
「え?」
美咲は思わず身を乗り出した。
「ほんとに?」
「そんな驚く?」
「だって知らなかった」
「言ってないもん」
そこから美咲は、少しずつ質問を始めた。
どんな感じなのか。
男と違うのか。
何をするのか。
最初は興味だった。
でも、聞いているうちに妙に落ち着かなくなった。
自分がさっき話した「感じやすいところ」を、菜々子が覚えていることにも気づいてしまった。
「じゃあ美咲って、そこ触られると弱いんだ」
「ちょっと、忘れてください」
「自分で言ったんじゃん」
「酔ってるからです」
「そんな酔ってないでしょう」
「酔ってます」
菜々子が笑った。
それから少し間を置いて言った。
「そんなに気になるなら、試してみる?」
「……何を?」
「女同士」
美咲は固まった。
菜々子はその顔を見ると、すぐ手を振った。
「ごめん。今のなし」
「え?」
「失恋したばっかの後輩に言うことじゃなかったな」
「いや」
「忘れて」
店を出たあとも、美咲の頭にはその言葉が残った。
駅前で菜々子が言った。
「じゃあ、気をつけて帰ってね」
「あの」
「ん?」
「さっきの話」
菜々子が黙った。
「冗談ですか」
「半分は」
「もう半分は?」
菜々子は美咲を見た。
「美咲次第」
胸が妙に早くなった。
「……行ってみたいです」
*
ホテルの部屋に入った途端、美咲は急に現実感を失った。
「ほんとに来ちゃった」
「まだ帰れるよ」
「帰らないです」
菜々子は笑わなかった。すぐに近づいてくることもなかった。それが逆に緊張した。
やがて、ベッドの端に腰掛けた美咲の隣に、菜々子が静かに腰を下ろした。
ふわりと、女性特有の柔らかい香りが鼻をくすぐる。
菜々子の手が、ゆっくりと美咲の頬に触れた。指先が耳たぶをなぞり、そのまま首筋へと滑り降りる。
美咲の身体は、思ったより早く反応した。
触れられた場所から電撃のような熱が走り、太ももの内側がじりじりと熱い。その瞬間、いつもの癖で息を止めた。
「美咲」
「はい」
「我慢してる?」
「してません」
「そっか」
それだけだった。
菜々子は責めなかった。美咲が唇を噛んで耐えていることを分かっていながら、急かさず、ただじっくりとその身体を観察するように触れ続けていた。
やがて、菜々子の手が薄いワンピースの裾から、太ももへと忍び込んできた。
指先が内腿の柔らかい部分をなぞるたび、美咲の身体はびくりと震えた。
美咲は、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
すると、堰を切ったように熱い吐息が漏れた。
慌てて口元を手で隠そうとして、途中でやめた。
菜々子の指が、ついに一番熱い場所に触れた。
「あ……っ」
思わず声が出た。でも、それを消そうともしなかった。
指先が優しく、けれど正確に、美咲が一番弱い場所を捉えて、小さく円を描く。
じゅわり、と蜜が溢れ出す感覚がある。
男の人に触れられたときとは違う。もっと繊細で、執拗で、自分の身体がどうなっているかをすべて見透かされているような、恐ろしく心地よい快感だった。
美咲は、自分の身体が激しく波打つのを感じた。
腰が自然と浮き上がり、菜々子の指を求めるように動く。
「いいよ。もっと動いて」
その声に、美咲はさらに大胆に腰を揺らした。
呼吸は乱れ、視界が白く霞む。
指先が中へと滑り込んだとき、思ったよりもずっと早く、それは来た。
美咲は背中を大きく反らせ、声を上げた。
「んぁっ……! ぁ、あ……!」
恥ずかしい。けれど、心地よかった。
自分の反応が相手に伝わり、それに応えてさらに快感が深まっていく。
今までの美咲は、相手と一緒にいるのに、ずっと一人で耐えていたのだ。
やがて菜々子が身体を起こした。
「もう分かったでしょう?」
「何がですか」
「美咲、別におかしくないよ」
菜々子が少し離れた。
「今日はここまでにしようか」
美咲は反射的に手を伸ばした。
菜々子の手首をつかんでいた。
二人とも黙った。
美咲は自分の手を見る。
ここで離せばいい。
最初の目的は達成した。
自分はおかしくなかった。
もう分かった。
なのに。
「もう少し」
菜々子が美咲を見る。
「いいの?」
美咲は頷いた。
今度は、自分から近づいた。
「今度は」
声が震えた。
「我慢しないから」
その言葉を口にした瞬間、美咲は自分でも少し笑った。
何をそんなに守っていたのだろう。
恥ずかしさがなくなったわけではない。
むしろ恥ずかしい。
でも、それでいいと思えた。
その夜、美咲は初めて、自分が感じることを止めなかった。
そしてもう一つ、予定していなかったことにも気づいた。
菜々子に触れることが好きだった。
菜々子に触れられることだけではない。
自分が触れたことで、菜々子の表情が変わること。
近づいてくること。
呼吸が重なること。
それがたまらなく楽しかった。
*
数日後。
美咲は出勤前、鏡の前でスカートを選んでいた。
結局、いつものミニスカートにした。
脚が一番綺麗に見える。
そこは何も変わらない。
自分をよく見せたいと思うことも、好きな服を選ぶことも、美咲はやめるつもりがなかった。
バイト先では菜々子も普段どおりだった。
「おはよう」
「おはようございます」
それだけ。
休憩時間、美咲はスマートフォンを取り出した。
少し迷って、菜々子に送る。
『今日、何時までですか?』
しばらくして返信が来た。
『同じ時間。相談?』
美咲は画面を見て笑った。
以前なら、その言葉に乗った。
相談。
確認。
実験。
いくらでも言い訳は作れた。
でも今日は違う。
『違います』
送る。
それからもう一通。
『会いたいです』
送信したあと、美咲はスマートフォンを伏せた。
取り消したいとは思わなかった。
少し離れたところで、菜々子のスマートフォンが鳴る。
顔を上げると、菜々子と目が合った。
美咲は、今度は逸らさなかった。
失ったと思っていた。
女として何か足りなかったから、捨てられたのだと思っていた。
けれど、そうではなかった。
我慢するのをやめた先には、自分でも知らなかった楽しさがあった。
誰かと一緒に感じる楽しさ。
そして、好きになれる相手が、自分の思っていたよりずっと広い世界にいるということ。
失恋して、一つ減ったはずだった。
なのに今は、前よりも一つ増えている。
菜々子がスマートフォンを見て、こちらを向いた。
少しだけ口元が笑っている。
美咲も笑った。
今度は、それを隠さなかった。