04 / FICTION

SLENDER IV.com / 書き下ろし官能小説

失って手に入ったもの

作品から着想を得た、書き下ろし官能小説です。

レビュー対象とは別の人物・設定で書かれた、出演者本人とは無関係の書き下ろし成人フィクションです。

創作であること

この物語は作品から着想を得た独立したフィクションです。出演者本人の心情や実際の出来事、レビュー対象の固有場面を示すものではありません。

この小説は、作者自身のアイデアと構想をもとに、AIの支援を受けながら文章化・推敲しています。

WRITTEN FOR SLENDER IV.com

美咲は、声が出そうになるたびに息を止めた。

身体の奥では、もっと近くに来てほしいと思っている。触れられるたびに、肩が跳ねそうになる。けれど、それを悟られるのが嫌だった。

だから、いつものように動かない。

指先に力を入れ、シーツを握る。唇から何か漏れそうになると、口を閉じる。

「……平気?」

彼が聞いた。

「うん」

「痛くない?」

「全然」

本当は、痛いどころではなかった。

彼が指先で浅い場所をなぞるだけで、身体の奥が熱く疼き、快感の波がせり上がってくる。そのたびに美咲は、喉元まで出かかった声を飲み込み、腰が跳ねそうになるのを強引に抑え込んだ。

昔からそうだった。

感じていることを知られるのが恥ずかしい。自分から求めているように見えるのも嫌だった。

普段の美咲は、自分がどう見えるかをよく考えていた。

身長は百五十センチそこそこ。胸も大きくない。誰もが振り返るような美人でもない。

ただ、脚は綺麗だった。

それは自分でも分かっている。

だからミニスカートをよく履いた。

露骨に色っぽいものではない。小柄な体型に似合う、少しカジュアルなもの。靴も、トップスも、それに合わせる。

自分には何が似合うか。

どこを見せれば魅力的に見えるか。

美咲はよく知っていた。

見せる自分は、自分で決める。

それが好きだった。

なのに、男と二人きりになった途端、身体は自分の言うことを聞かなくなる。

だから美咲は、それを隠した。

その夜も同じだった。

終わったあと、彼は美咲の隣で天井を見ながら言った。

「なんかさ」

「何?」

「最近、つまんないんだよな」

美咲は横を向いた。

「何が?」

「こういうの」

一瞬、何を言われているのか分からなかった。

「何しても反応同じじゃん」

「……そう?」

「美咲、別にしたくないんじゃない?」

胸の奥がざわついた。

違う。

そんなわけない。

むしろ逆だ。

でも、それを言うのはもっと恥ずかしかった。

だから美咲は笑った。

「別に普通でしょ」

「普通ねえ」

「何?」

「いや、いいけど」

その「いいけど」が妙に残った。

それから五日後。

彼から電話が来た。

『好きな人できた』

一瞬、聞き間違えたと思った。

「……へえ」

『だから、ごめん』

「何それ」

『ほんとごめん』

「別にいいよ」

自分でも驚くほど冷静な声だった。

『美咲?』

「じゃあね」

電話を切った。

泣いたのは、それからだった。

どうしても、あの夜の言葉が頭から離れなかった。

つまらない。

たぶん、あれだ。

あれが原因だ。

本当は違うかもしれない。

それでも美咲には、そう思えて仕方なかった。

「で、振られたんです」

美咲がそう言うと、向かいに座る菜々子はグラスを置いた。

菜々子はバイト先の三つ上の先輩だった。

仕事は早いし、気さくで、誰とでもそれなりに仲良くする。でも必要以上には踏み込まない。

その距離感が、美咲は好きだった。

「急だね」

「好きな人できたって」

「それはしんどいな」

「別に」

「別にって顔じゃないけど」

「……そうですか」

「そうだね」

菜々子はそれ以上慰めなかった。

そのことが、逆に美咲にはありがたかった。

二杯目を飲み終えた頃、美咲はぽつりと言った。

「たぶん、私にも原因あるんですよ」

「何したの?」

「何もしてない」

「ん?」

「何もしなかったんです」

菜々子が少し首を傾げた。

美咲はグラスを見た。

「そういう……夜のこと」

「ああ」

「私、つまんないらしいです」

「本人に言われたの?」

「最近つまんないって」

「ひどいな」

「でも、たぶん本当なんですよ」

「どうして?」

「私、あんまり反応しないから」

菜々子が黙った。

美咲はそれが気まずくなって、慌てて笑った。

「何の話してるんでしょうね、私」

「本当に反応しないの?」

美咲は顔を上げた。

「え?」

「感じないってこと?」

「……違います」

口にした瞬間、顔が熱くなった。

菜々子は何も言わない。

「むしろ……」

美咲は声を小さくした。

「感じやすいんです」

「じゃあ、なんで反応しないの?」

「我慢するから」

「なんで?」

美咲は困った。

「なんでって……恥ずかしいじゃないですか」

「何が?」

あまりに普通に聞かれて、美咲は一瞬言葉を失った。

「いや……声とか」

「うん」

「身体が動いたりとか」

「うん」

「自分からしてほしいとか言ったり」

菜々子はしばらく考えた。

「それ、恥ずかしいの?」

「恥ずかしいですよ」

「そうなんだ」

「え、恥ずかしくないんですか?」

「私は別に」

美咲は菜々子を見た。

馬鹿にしている様子はなかった。

本当に、何が問題なのか分かっていない顔だった。

「だって、気持ちいいんでしょう?」

その言葉に、美咲は妙な気持ちになった。

自分がずっと大問題だと思っていたことを、この人は何でもないことのように言う。

「菜々子さんは……そういうの、我慢しないんですか?」

「しないかな」

「全部?」

「全部かどうかは知らないけど」

菜々子が笑った。

「そんなに自分のこと監視しながらする方が疲れない?」

図星だった。

美咲は黙った。

「男の人って、やっぱりそういう方がいいんですかね」

「それは人によるんじゃない?」

「じゃあ女の人は?」

言ってから、美咲は自分でも変な質問だと思った。

菜々子は少しだけ目を細めた。

「女?」

「いや、なんとなく」

「私、女の人とも付き合ったことあるよ」

「え?」

美咲は思わず身を乗り出した。

「ほんとに?」

「そんな驚く?」

「だって知らなかった」

「言ってないもん」

そこから美咲は、少しずつ質問を始めた。

どんな感じなのか。

男と違うのか。

何をするのか。

最初は興味だった。

でも、聞いているうちに妙に落ち着かなくなった。

自分がさっき話した「感じやすいところ」を、菜々子が覚えていることにも気づいてしまった。

「じゃあ美咲って、そこ触られると弱いんだ」

「ちょっと、忘れてください」

「自分で言ったんじゃん」

「酔ってるからです」

「そんな酔ってないでしょう」

「酔ってます」

菜々子が笑った。

それから少し間を置いて言った。

「そんなに気になるなら、試してみる?」

「……何を?」

「女同士」

美咲は固まった。

菜々子はその顔を見ると、すぐ手を振った。

「ごめん。今のなし」

「え?」

「失恋したばっかの後輩に言うことじゃなかったな」

「いや」

「忘れて」

店を出たあとも、美咲の頭にはその言葉が残った。

駅前で菜々子が言った。

「じゃあ、気をつけて帰ってね」

「あの」

「ん?」

「さっきの話」

菜々子が黙った。

「冗談ですか」

「半分は」

「もう半分は?」

菜々子は美咲を見た。

「美咲次第」

胸が妙に早くなった。

「……行ってみたいです」

ホテルの部屋に入った途端、美咲は急に現実感を失った。

「ほんとに来ちゃった」

「まだ帰れるよ」

「帰らないです」

菜々子は笑わなかった。すぐに近づいてくることもなかった。それが逆に緊張した。

やがて、ベッドの端に腰掛けた美咲の隣に、菜々子が静かに腰を下ろした。

ふわりと、女性特有の柔らかい香りが鼻をくすぐる。

菜々子の手が、ゆっくりと美咲の頬に触れた。指先が耳たぶをなぞり、そのまま首筋へと滑り降りる。

美咲の身体は、思ったより早く反応した。

触れられた場所から電撃のような熱が走り、太ももの内側がじりじりと熱い。その瞬間、いつもの癖で息を止めた。

「美咲」

「はい」

「我慢してる?」

「してません」

「そっか」

それだけだった。

菜々子は責めなかった。美咲が唇を噛んで耐えていることを分かっていながら、急かさず、ただじっくりとその身体を観察するように触れ続けていた。

やがて、菜々子の手が薄いワンピースの裾から、太ももへと忍び込んできた。

指先が内腿の柔らかい部分をなぞるたび、美咲の身体はびくりと震えた。

美咲は、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。

すると、堰を切ったように熱い吐息が漏れた。

慌てて口元を手で隠そうとして、途中でやめた。

菜々子の指が、ついに一番熱い場所に触れた。

「あ……っ」

思わず声が出た。でも、それを消そうともしなかった。

指先が優しく、けれど正確に、美咲が一番弱い場所を捉えて、小さく円を描く。

じゅわり、と蜜が溢れ出す感覚がある。

男の人に触れられたときとは違う。もっと繊細で、執拗で、自分の身体がどうなっているかをすべて見透かされているような、恐ろしく心地よい快感だった。

美咲は、自分の身体が激しく波打つのを感じた。

腰が自然と浮き上がり、菜々子の指を求めるように動く。

「いいよ。もっと動いて」

その声に、美咲はさらに大胆に腰を揺らした。

呼吸は乱れ、視界が白く霞む。

指先が中へと滑り込んだとき、思ったよりもずっと早く、それは来た。

美咲は背中を大きく反らせ、声を上げた。

「んぁっ……! ぁ、あ……!」

恥ずかしい。けれど、心地よかった。

自分の反応が相手に伝わり、それに応えてさらに快感が深まっていく。

今までの美咲は、相手と一緒にいるのに、ずっと一人で耐えていたのだ。

やがて菜々子が身体を起こした。

「もう分かったでしょう?」

「何がですか」

「美咲、別におかしくないよ」

菜々子が少し離れた。

「今日はここまでにしようか」

美咲は反射的に手を伸ばした。

菜々子の手首をつかんでいた。

二人とも黙った。

美咲は自分の手を見る。

ここで離せばいい。

最初の目的は達成した。

自分はおかしくなかった。

もう分かった。

なのに。

「もう少し」

菜々子が美咲を見る。

「いいの?」

美咲は頷いた。

今度は、自分から近づいた。

「今度は」

声が震えた。

「我慢しないから」

その言葉を口にした瞬間、美咲は自分でも少し笑った。

何をそんなに守っていたのだろう。

恥ずかしさがなくなったわけではない。

むしろ恥ずかしい。

でも、それでいいと思えた。

その夜、美咲は初めて、自分が感じることを止めなかった。

そしてもう一つ、予定していなかったことにも気づいた。

菜々子に触れることが好きだった。

菜々子に触れられることだけではない。

自分が触れたことで、菜々子の表情が変わること。

近づいてくること。

呼吸が重なること。

それがたまらなく楽しかった。

数日後。

美咲は出勤前、鏡の前でスカートを選んでいた。

結局、いつものミニスカートにした。

脚が一番綺麗に見える。

そこは何も変わらない。

自分をよく見せたいと思うことも、好きな服を選ぶことも、美咲はやめるつもりがなかった。

バイト先では菜々子も普段どおりだった。

「おはよう」

「おはようございます」

それだけ。

休憩時間、美咲はスマートフォンを取り出した。

少し迷って、菜々子に送る。

『今日、何時までですか?』

しばらくして返信が来た。

『同じ時間。相談?』

美咲は画面を見て笑った。

以前なら、その言葉に乗った。

相談。

確認。

実験。

いくらでも言い訳は作れた。

でも今日は違う。

『違います』

送る。

それからもう一通。

『会いたいです』

送信したあと、美咲はスマートフォンを伏せた。

取り消したいとは思わなかった。

少し離れたところで、菜々子のスマートフォンが鳴る。

顔を上げると、菜々子と目が合った。

美咲は、今度は逸らさなかった。

失ったと思っていた。

女として何か足りなかったから、捨てられたのだと思っていた。

けれど、そうではなかった。

我慢するのをやめた先には、自分でも知らなかった楽しさがあった。

誰かと一緒に感じる楽しさ。

そして、好きになれる相手が、自分の思っていたよりずっと広い世界にいるということ。

失恋して、一つ減ったはずだった。

なのに今は、前よりも一つ増えている。

菜々子がスマートフォンを見て、こちらを向いた。

少しだけ口元が笑っている。

美咲も笑った。

今度は、それを隠さなかった。