04 / FICTION

SLENDER IV.com / 書き下ろし官能小説

着ぐるみの中に入っている私、満員電車で変な趣味ができたかもしれない

レビュー記事と組み合わせた独立小説です。

レビューとあわせて読める独立した物語です。

創作であること

この物語はレビュー記事と組み合わせた独立小説です。レビュー対象作品からの着想や、出演者本人の心情・実際の出来事・固有場面を示すものではありません。

この小説は、作者自身のアイデアと構想をもとに、AIの支援を受けながら文章化・推敲しています。

WRITTEN FOR SLENDER IV.com

私、何してるんだろ。

いや、本当に。

朝っぱらから何してるんだろ、私。

電車は駅と駅の真ん中で止まっていた。 車内アナウンスによると、前を走る電車で安全確認をしているらしい。

「ご迷惑をおかけしております」

うん。 迷惑。 すごく迷惑。

だって、動いてくれないから。 いつもなら二駅くらいで人の位置が変わるのに、今日はずっとこのままだ。

私は吊り革につかまったまま、できるだけ正面だけを見る。 右も見ない。 左も見ない。 ましてや後ろなんか絶対に見ない。

だって後ろには、あの人がいる。

毎朝見かける人。 名前は知らない。 歳も知らない。 仕事も知らない。 知っているのは、よく同じ時間の電車に乗ることと、私よりずっと背が高いこと。 あと、たぶん私の三駅くらい先で降りる。

……いや。 「たぶん」じゃない。 知ってる。 毎朝見てるから。

そこで私は、自分の太ももに置いていた手をいったん離した。

何やってんの。 本当に。

さっきから落ち着かなくて、自分の脚を軽く押したり、指先でつまんだりしている。 別にそれだけなら普通だ。 たぶん。 満員電車で足が疲れて、自分の脚を揉む人くらいいる。 ……いるよね?

でも、問題はそこじゃない。 私が何を意識しながらやっているかだ。

背中が、あったかい。 もちろん直接触れているわけじゃない。 というか、触れているのかもしれないけど、満員電車なんだから誰が誰にどこまで触れているのかなんてよく分からない。

ただ。 後ろにいる。 それだけは分かる。 電車が止まる前からずっと。 そして今も。

私はこっそり息を吐いた。 暑い。 九月も後半なのに、今日は車内が妙にむっとしている。 人の熱気が逃げない。 首筋がじんわりする。

その状態で、後ろにあの人がいる。 そんなの。 ちょっとくらい変な気分になったって仕方なくない?

……いや。 仕方なくはないな。

私は自分で即座に否定した。 こういうところが私の悪いところだ。 自分に都合のいい理屈を作るのが異常に早い。 仕事でもよく言われる。 「それ絶対あとから考えたでしょ」って。 だいたい当たってる。

私は遊園地で働いている。 二十三歳。 夢を売る仕事、と言うと聞こえはすごくいい。 実際、私はかなり好きだ。 小さな子が目をきらきらさせながら駆け寄ってくるのを見ると、本当にこの仕事をやっていてよかったと思う。

ただし、そのときの私は人間ではない。 少なくとも子供たちから見れば。 大きな頭。 丸い手。 ふわふわした体。 その中に私が入っている。

身長が低いことは、昔はちょっとだけコンプレックスだった。 百五十三センチ。 でも今の仕事ではむしろ便利だ。 担当しているキャラクターの中に入るにはちょうどいいらしい。

職場に着いたら着替えるから、通勤はだいたい好きな格好だ。 今日もスポーティーなショートパンツに、薄手のパーカー。 バッグは体の前。

それが今は、なんだか妙に安心できる。 人が多いから。 ぎゅうぎゅうだから。 誰も私のことなんて見ていないから。 そして。 後ろにはあの人がいるから。

……何それ。 最後の一個いらない。

私は心の中で自分にツッコミを入れた。 でも、その一個が一番大きい気がする。

最初にあの人を見かけたのは、二か月くらい前だったと思う。 本当に、それだけだった。 あ。 ちょっとかっこいい。 終わり。 その程度。

翌日、また見た。 その次の週にも見た。 そしていつの間にか、ホームに立つと探すようになった。

別に恋じゃない。 そこは本当に違う。 付き合いたいとかもない。 名前を知りたいとも思わない。 ただ。 見つけると少し嬉しい。 いないと少しつまらない。 それだけだった。 最初は。

ある朝、乗り込むときに人がぶつかってきて、私は少しよろけた。 そのとき腕に手が触れた。 「あ、すみません」 振り向く。 あの人だった。 「いえ、全然」

たったそれだけ。 会話時間、たぶん二秒。 なのにその日、私は一日ずっと機嫌がよかった。

いやいやいや。 私、中学生? 自分でも笑った。

でも次の日から、ホームで立つ位置が少し変わった。 偶然を装って、あの人の近く。 まあ、偶然なんだけど。 私が作ってる偶然だけど。 そのうち、あの人がいなければ一本待つこともあった。 さらにしばらくすると、少し早く家を出るようになった。 それなら確実に同じ電車に乗れる。

すごい。 生活習慣まで改善された。 男の力すごい。 なんて一人で笑っていた。

でも、本当にそれ以上は何もなかった。 話しかけない。 向こうも話しかけてこない。 それでよかった。 満員電車の中で、たまたま近くに立てた。 今日は隣。 今日は少し遠い。 今日は後ろ。 そんなことで朝が少しだけ面白くなる。

私だけが勝手にやっているゲームだった。

だから今日だって、最初はいつもと同じだった。 あの人を見つけた。 少し近くに並んだ。 同じドアから乗った。 人に押されて、私は前、あの人は後ろになった。 ラッキー。 その程度。

ところが電車が止まった。 そして動かない。

最初の一分くらいは普通だった。 二分。 三分。 アナウンス。 また待つ。 人の熱気。 近すぎる距離。 背中に感じる存在。

そこで私は、ほんのいたずらのつもりで自分の太ももをつまんだ。 意味なんてない。 ただ。 なんとなく。 少し強めにつまんでみる。 離す。

何してるんだろ。 そう思って、ちょっと笑いそうになった。

そこで終わればよかった。 ところがしばらくすると、また手が戻った。 同じことをした。 二回目。 二回目になると、不思議なくらい普通だった。 さっきまで変だと思ったのに。 あ。 一回やると、普通になるんだ。 それが妙に面白かった。

じゃあ。 どこまでなら普通なんだろ。 いやいや。 考えるな、私。

私は前を向いたまま息を吐く。 電車はまだ動かない。 後ろの彼も動かない。 当たり前だ。 身動き取れないんだから。

でも私の頭の中では、勝手な物語が始まっていた。 私が小柄だからだろうか。 背後に背の高い人がいると、妙に囲われている感じがする。 前にはバッグ。 後ろには彼。 なんか。 守られてるみたい。

そこまで考えて、私は吹き出しそうになった。 何から? 誰が? 知らない女を? 勝手に守られてることにするな。 ほんとバカ。

でも。 その妄想が意外と嫌じゃなかった。 本人は何も知らない。 それなのに私は勝手に、 この人が後ろにいるから大丈夫。 とか思ってる。 その状況がおかしくて。 ちょっと楽しくて。 そして。 たぶん、それがいけなかった。

私は一度、手を止めた。 もう終わり。 ここまで。 十分変だった。 これ以上は本当にダメ。 そう決めた。

十秒くらい。 たぶん。 それくらいは本当にやめていた。

でも電車が小さく揺れた。 後ろの気配が一瞬近づく。 その瞬間。 もう少しくらい。 という言葉が頭に浮かんだ。

え。 待って。 今の誰? 私だ。

さっきまで、 こんなことする私、変じゃない? と思っていたのに。 今はもう、 これくらいなら。 になっている。

その変化が妙に面白かった。 危ない。 と思う。 同時に、 どこまで行くんだろ。 とも思った。 自分のことなのに。 他人事みたいに。

そして私は、もう一度だけ自分の手を動かした。 今度は、さっきとは違う。 なんとなくじゃない。 自分が何をしているのか、ちゃんと分かっている。

だからこそ、一瞬だけ止まった。 周囲の音が急に大きく聞こえる。 アナウンス。 咳払い。 スマホを操作する音。 誰かのため息。 普通の朝。 その真ん中で。 私だけが普通じゃない。

そう思った瞬間、胸の奥が急に熱くなった。 「……私、ほんとにやってる」 声には出していない。 でも、その言葉が頭の中に浮かんだだけで、もう一段、何かが変わった。

恥ずかしい。 やめた方がいい。 分かっている。 でも。 今さら最初の私には戻れない。

太ももを軽くつまんだだけだった自分。 それにさえ、 何してるんだろ。 って驚いていた自分。 その自分が、もうずいぶん遠い。 数分しか経ってないのに。

おかしくて。 ちょっと怖くて。 でも。 すごく面白かった。

私、自分のこと全然知らなかったんだ。 そのことが一番、私を煽っていた。

あの人が後ろにいる。 それはきっかけ。 でも今はもう、それだけじゃない。 この場所。 逃げられない距離。 誰にも知られていないこと。 自分だけが知っている秘密。 そして。 そんな自分を面白がっている私。 全部が重なっていた。

やめよう。 何度目か分からないけど、もう一度そう思った。 でも、その言葉にはもう最初ほど力がなかった。 代わりに、 ここまで来たなら。 という、もっと危ない言葉が出てくる。

「いや、それはダメでしょ」 心の中で自分にツッコミを入れる。 本当にダメ。 なのに少し笑ってしまう。 私の中で、 ダメ。 と、 でも。 がずっと交互に出てくる。 そしてそのたびに、自分の感覚が少しずつ強くなっていった。

時間が伸びていく。 背後の体温。 むっとした空気。 バッグを握る指。 吊り革。 揺れ。 呼吸。 全部がやけに鮮明だった。

もう考える余裕がなくなってくる。 さっきまであれだけ頭の中でしゃべっていたのに。 今は言葉が減っていた。

まずい。 ほんとにまずい。 それでも。 もう止めたくない。

そこまで思った瞬間。 私の中で、何かがすっと切り替わった。 恥ずかしいとか。 変だとか。 明日どうするとか。 そんなものが、ほんの一瞬だけ全部消えた。

私は吊り革を握る左手に力を込め、空いた右手で、ゆっくりとショートパンツの裾を押し上げた。

指先がもも裏の柔らかい肌に触れる。 10秒、いや20秒かけて、ただ撫で上げるだけ。 その単純な動作だけで、下腹部のあたりがキュンと疼いた。

いきなりそこを触るなんて、もったいない。 私はわざと、薄い下着の生地越しに、指の腹でじっくりと圧迫した。 ぐるりと円を描くように。 ゆっくり。 本当に、ゆっくり。 布地が肌に擦れるわずかな摩擦さえ、今の私には耳障りなほど大きく聞こえた。

「ん……っ」

唇を噛んで声を押し殺すが、鼻から抜ける吐息はどうしても熱を帯びてしまう。 直接触れないもどかしさが、逆に感覚を鋭敏にさせる。 指先が動くたびに、身体の奥がじゅわりと疼いた。

(……あ、もう、ダメ……)

私は指先に力を込めて、下着の縁から直接、秘められた熱の源へと潜り込ませた。 指先が、ぬるりと濡れた粘膜に触れた瞬間。

「……っ!」

全身に電撃が走ったように、背筋がピンと伸びた。 そこはすでに、私の期待に応えるようにたっぷりと蜜を湛えていた。 指先にまとわりつく熱い感触に、頭の中が真っ白になる。

私はまず、周辺から丁寧に愛撫し始めた。 爪の先で軽く弾くように。 あるいは指の腹で優しくなぞるように。 身体のどこが一番敏感に反応し、どこを触れればどのような声が出るのか。 自分自身の身体を再発見するように、じっくりと時間をかけて探索していく。

「ふ、ぅ……ん……あぁ」

小さな声が漏れる。 電車の揺れに合わせて、身体が彼に押し付けられるたび、指先の動きが不規則に乱れた。 その不随意な刺激が、予想もしなかった快楽となって脳を揺さぶる。

次第に、指先の動きに目的が定まってくると、私は一番敏感な突起へと指を這わせた。 そこだけが、ぴくぴくと小刻みに震えているのが分かる。 私はあえて速度を落とし、羽毛で撫でるような繊細なタッチで、その小さな突起を転がした。

「ひ……んっ、あぁ……!」

あまりの快感に、吊り革を握る指の関節が白くなる。 身体の芯から熱い波動が押し寄せ、膝がガクガクと震え始めた。 でも、ここで止めたくない。もっと、もっと深く、快楽の底まで墜ちたい。

私は指を一本増やし、挟み込むようにして刺激を強めた。 左右から交互に、あるいは同時に。 速度を変えて、じっくりと。 時には激しく、突き上げるように。 快感の波が押し寄せ、引いてはまた来る。 その波に翻弄されながら、私は自分の身体が快楽の奴隷になっていく感覚に酔いしれた。

(……あ、これ、もう……!)

絶頂が、すぐそこまで来ている。 身体が小刻みに震え、内側から溢れ出した熱い蜜が、指先をさらにぬるぬると濡らしていく。 もう、理性なんてどこにもなかった。 あるのは、この快楽を完結させたいという、動物的で切実な欲求だけ。

私はバッグの持ち手を強く握りしめ、逃げ場のない快楽を正面から受け止めた。 指先の速度を最大限に上げ、突き上げるように、深く、激しく。

「あ……っ、あぁ! は、ぁっ!」

最後の一押し。 身体が弓なりに反り、意識が真っ白な光に塗り潰された。 指先から伝わる自分の激しい拍動と、身体の芯を突き抜ける快感。 絶頂の波が何度も何度も押し寄せ、私は声にならない悲鳴を喉の奥に必死に押し込めた。

「…………はぁ……っ、はぁ……」

どれくらいの時間が経っただろうか。 ゆっくりと、意識が現実へと戻ってくる。

汗ばんだ首筋に、電車のエアコンの風が当たって心地よい。 指先に残るぬるりとした感触と、身体の奥に残る心地よい痺れ。 23歳の大学生が、満員電車の中で絶頂に達したという事実は、いまさら後悔するよりも、何よりも贅沢な快感として私の心を満たしていた。

「……うそでしょ」

今度こそ、本当に少しだけ口が動いた。 そしてその直後。

電車が動き出します、とアナウンスが入った。

私は思わず笑いそうになった。 遅い。 もう終わったよ。 何が、とは言えないけど。

電車がゆっくり動き始める。 人の位置が変わる。 背後の気配が少し離れる。 急に現実が戻ってきた。

駅に着く。 ドアが開く。 人が降りる。 いつもの朝。 彼もいつもの駅で降りていった。

振り返らない。 当然。 何も知らないんだから。

私はドアの向こうへ消える背中を見ながら、ちょっとだけ笑った。

この人。 本当に何も知らないんだ。 なんか悔しい。 いや。 知られてたら困るけど。 どっちなんだ、私。

「……もう、戻れないかも」

ふっと、口角が緩んだ。

翌朝。

クローゼットを開けて、私は服を選んでいた。

動きやすくて。 バッグを前に持っても不自然じゃなくて。 昨日より、もう少しだけ都合のいい服。

一枚手に取って、鏡の前で合わせる。

「……これかな」

そこで私は、ふと笑った。

昨日、もうやらないって決めたはずなのに。

その服を、ベッドの上に置いた。