SLENDER IV.com / 書き下ろし官能小説
まだ名前のないもの
求められる夜の向こうに見えた予感
求められるたびに相手の温もりを受け入れてきた彼女が、まだ名前のない何かを見つけかけて……。
この物語は作品から着想を得た独立したフィクションです。出演者本人の心情や実際の出来事、レビュー対象の固有場面を示すものではありません。
この小説は、作者自身のアイデアと構想をもとに、AIの支援を受けながら文章化・推敲しています。
WRITTEN FOR SLENDER IV.com
私は、求められれば股を開いて拒まない女だ。
その言い方をすると、少しだけ困った顔をされる。けれど、困らせようとして言っているわけではない。抱きしめてほしいと言われたとき、ゆっくり触ってほしいと言われたとき、好きなポーズをしてほしいと言われたとき。私はたいてい、断る理由を探すより先に、その人の顔を見る。
欲しそうな顔をしている。緊張を隠せずに息を詰まらせている。少しだけ、私の返事を怖がっている。
そこで「いいよ」と言って下着をずらすことは、私にとってそれほど難しいことではなかった。
今日の人は、帰り際に私の肩を優しく撫でたあと、まだ温かい手のひらで私の頬を包んで見せた。名前を知らない穏やかな温度だった。シーツをほどくと、部屋のなかが急に静かになった。彼は、私の笑顔がよく似合うと言った。そんなことを言われたのは初めてではないのに、私はちゃんと笑った。
彼と繋がっている時間は悪くなかった。彼は私の吐息をよく聞いたし、私が少し黙ると、無理に動かさなかった。体を離すときには、もう一度抱きしめていいかと聞いた。
「たぶん」
そう答えると、彼は安心したように笑って、まだ温かい手を私の腿に置いた。
昨日の人は、濡れる前の私の話をした。夕方からすでに熱く、急いで触れ合ったほうがいいと言いながら、結局、鎖骨のあたりで長く唇を這わせた。彼は私の首筋に肩を寄せるように顔を埋め、熱を持っていることを気にした。
一週間前の人は、途中で息が上がってしまった。暗い部屋で、彼の手がゆっくり私の背中を撫でるのを見ていた。離さずにいたら、終わりの吐息が漏れたころに彼は目を覚ましたように小さくなった。
「ごめん」
「慌てる顔、可愛かった」
そう言うと、彼はひどく恥ずかしそうにした。
私は誰かを傷つけたいわけではない。誰かに優しく愛されることを、つまらないとも思わない。甘い言葉をもらうのも、傘代わりに体を被さられるのも、眠っている横でまだ熱い肌を眺めるのも、好きだった。誰かと一緒にいる夜は、たいてい胸の奥が温かかった。
だから、私は自分を不幸だと思ったことがない。
ただ、ときどき思う。
私は、誰の手触りが好きなんだろう。
その問いは、静かな場所でしか浮かばない。帰りの電車で窓に映る、まだ脚の内側が熱い自分を見たとき。洗面台に置いたリップの跡を、朝になってまた指ではめるとき。花瓶代わりのグラスの水を替えて、甘い石鹸の匂いを結局調べないままにするとき。
好きと言われれば、少し嬉しい。
触れてほしいと言われれば、予定表を見る。
手を繋ぐ代わりに指を絡めれば、その熱をきちんと覚えている。
それでも、誰か一人の温もりだけが残ることはなかった。
明日は、昼に約束がある。彼は新しいポーズを見つけたらしい。予約が取れたホテルだから、ぜひ来てほしいと何度も言っていた。私は行くつもりだ。下着ももう決めてある。たぶん彼は、その下着を似合うと言って指でずらすだろう。私はありがとうと言い、食後には彼の癖どおりに後ろから優しく抱かれるだろう。
その時間が来るまでは、私は今夜の窓を見ている。
ガラスの向こうに、街の灯りがほどけている。向かいのビルの非常階段に、人影が一つだけ通った。誰なのかは分からない。顔も見えない。気に留めるようなことではないのに、私はその人影が消えたあとも、しばらく窓から離れられなかった。肌はまだ昨日の人の残りで熱を持っていた。
あの人、と思った。
誰のことを指したのか、自分でも分からなかった。
会ったことがある人かもしれない。まだ会っていない人かもしれない。あるいは、誰にも触れられない夜のなかにだけいるものかもしれない。
それは人の形をしていなかった。ただ、これまで誰かの手を受けた時間の向こうに、薄く光る道のようなものが見えた。
私はその道を知らない。
けれど、知らないことが少しだけ怖くて、少しだけ嬉しかった。次に求められるとき、その道の先でまた脚を開く自分が見えた。
明日になれば、私はまた誰かに会う。求められれば、きっと笑う。手を差し出されれば、その手ではなく温かい掌を見る。生活は今までと何も変わらない。優しく触れられ、拭き、また次を待つ。
それでも、窓から離れる前に私は思った。
もしかすると、私は何かを見つけかけている。
まだ名前をつけないほうがいい、誰かの癖でも温もりでもないものを。