04 / FICTION

SLENDER IV.com / 書き下ろし官能小説

もう少しの手前

初めてのDVD撮影で、境界を選ぶ二日間

初めてのDVD撮影に挑む結衣が、カメラの前で自分の境界を選びながら、次の一歩を踏み出す二日間。

創作であること

この物語は作品から着想を得た独立したフィクションです。出演者本人の心情や実際の出来事、レビュー対象の固有場面を示すものではありません。

この小説は、作者自身のアイデアと構想をもとに、AIの支援を受けながら文章化・推敲しています。

WRITTEN FOR SLENDER IV.com

初めてのDVD撮影だと聞かされた日、結衣は駅までの道を何度も遠回りした。

嬉しかった。ようやく来た仕事だった。けれど、同じくらい怖かった。

自分は少し可愛いと思う。鏡の前で笑えば、悪くないとも思える。でも、何もしなくても売れていくような特別な人間ではない。だから結衣は、撮影の一週間前から似たような作品を何度も見て、ポーズを練習し、笑う角度まで決めていた。

画面の中のモデルたちは、最初は水着で笑っている。それから衣装が変わり、カメラとの距離が近くなる。シャワーでは濡れた下着を撮られ、最後のベッドシーンでは、ただ横になるだけでは終わらない。

結衣は、それくらい知っていた。

そうなっていないモデルはすぐに続編が出なくなっていたし、そこから一流の女優にのしあがるには、自分には足りないものが多すぎる。

グラビアの仕事をするなら、やはりそれなりの覚悟はいる。そう思っていた。

午前のスタジオは、思っていたより静かだった。

淡い水色のビキニに短いパーカーを羽織り、窓際に立つ。録画の赤いランプが灯ると、結衣はゆっくり歩き、振り返って笑った。指示に合わせ、肩を少し引き、首を傾げる。目線を外して、またレンズへ戻す。

カメラが近づいてきたとき、息が浅くなった。ここで、もっと求められるのだろうか。パーカーの裾を握る指に力が入る。胸の奥がざわついた。

でも、指示は来なかった。

「はい、カット。次、着替えましょう」

拍子抜けと、わずかな安堵が同時に残った。怖がる必要なんてなかったのかもしれない。そう思う一方で、どこか落ち着かなかった。

白い水着に着替えて、ベンチに座る。脚を揃え、片方の足先を少し前へ出す。カメラが膝元からゆっくり上がってくる。今度こそ何か言われるかもしれない、と背筋を伸ばした。唇をわずかに開き、視線を少し落とす。自分で少しだけ攻めてみた。

それでも、すぐにカットがかかった。

午前が終わるころ、結衣の中に小さな後悔に似たものが残っていた。

もしかすると自分には「続き」がいらないと判断されたのではないか。少し顔がいいだけで、そこまで撮りたくなる子ではないと思われたのではないか。

その考えが浮かんだ瞬間、今度は悔しさが込み上げた。誰かの注文を待って、選ばれるかどうかを気にしているだけでは、今日ここへ来た意味がない。

午後は、もう少し自分を出してみよう。

黒いビキニに薄いシャツを重ね、ソファに座る。最初は指示通りに。膝の上に手を重ね、笑顔を作る。立ち上がってソファの背に手を置く。

「そこ、もう一回だけ——」

ディレクターの声が聞こえた。その先には、たぶん「OK」が続くはずだった。

結衣は先に動いた。

シャツの片方を肩から少し落とす。腰の位置をずらし、脚の線が出るように足先を伸ばす。前髪を耳にかけ、レンズを見て、口元だけをわずかにゆるめた。心臓が耳の奥で鳴っていた。ここまでならまだ許されるはずだ、と自分に言い聞かせるように。

ディレクターの言葉が止まった。

スタッフも何も言わない。機材の小さな駆動音だけが聞こえる。自分が少し先へ出たことで、現場の温度が変わった気がした。

「……そのまま、ゆっくり顔を上げてください」

結衣は従った。次の指示を待たず、自分で作った表情のまま、数秒だけレンズを見つめた。視線は外さない。しかし胸の高鳴りが収まらない。

「カット」の声のあと、宣材用のスチールも数枚撮ることになった。

シャワーのシーンは、予想より長かった。

白い水着に着替え、タイルの壁の前に立つ。水が肩と髪に落ち始めると、一度だけ目を閉じた。ここは、見てきた作品の中でもカメラが長く留まる場面だった。

怖くないわけではない。濡れた水着は身体の線をそのまま見せる。髪が頬に張りつき、隠していたい表情まで映りそうだった。それでも結衣は、水に身を任せた。

ディレクターが手を上げかけた。そろそろ切る合図だと分かった。

その前に、結衣は自分で髪をかき上げた。首筋から肩へ指を滑らせ、水滴を払うように腕をなぞる。ゆっくりカメラの方を向き、濡れた布地がきれいに見える角度を探す。指先がわずかに震えていた。ここで引いたら、午前の自分に戻ってしまう気がした。

手が下がるのを見て、ディレクターは合図を出さずに待った。

「無理はしないで」

小さな声がした。

結衣は返事をしなかった。ただ、もう一度だけ髪を耳にかけ、レンズの方へ近づいた。水滴が鎖骨を伝う感触を意識しながら、息を整える。自分がどこまでできるのかを、今は試したかった。

夕方のベッドは、空気が違った。

黒いランジェリーに着替えた結衣は、ベッドの端に座ったまましばらく動けなかった。ここで何が求められるかは、だいたい分かっている。見てきた作品の最後には、その時間があった。

録画のランプが灯る。

ゆっくり横になる。片方の膝を立て、シーツの上で脚の位置を整える。胸元に手を置き、呼吸に合わせて指先を少し動かす。ここまでは、鏡の前で何度も練習した。

「……いいです」

ディレクターが言いかけた。

結衣は止まるつもりだった。上半身を起こして、最後は笑って終える。その形まで考えていた。

けれど、カメラの向こうは静かだった。誰も急かさない。ただ、次に何をするかを待っている。その沈黙に触れたとき、結衣の胸の奥が熱くなった。

自分で決めた線を越えるのは、嫌だった。

それでも横になったまま、髪を広げ、背中を少し反らせる。指先を鎖骨から肩へ滑らせ、ランジェリーの肩紐に触れる。そこで止めるはずだった手は、すぐには離れなかった。

片方の膝をゆっくり倒し、もう片方も少しだけ開く。カメラへ近づくように身体の向きを変え、レンズを見た。自分でも想像していなかった表情が、そこに映っている気がした。息が浅くなる。嫌なのに、視線を外せない。

「結衣さん」

ディレクターの声がした。

結衣は小さく頷いた。やめてほしいと言われたのではない。続けろと言われたのでもない。ただ、確認されたのだと分かった。

だから、もう一度だけ自分で姿勢を変えた。ここで止めることもできた。けれど、その場の空気と、自分に向けられたレンズに応えるように、少しだけ進んだ。

撮影を終える合図が出るまで、結衣はカメラを見つめていた。

手のひらには薄く汗が残っていた。人に見られることは、思っていたよりずっと落ち着かなかった。それでも、最後の時間に何をしたかは、自分で決めたことだった。

その夜、結衣は家に帰ってからも、鏡の前に立った。

明日の撮影でも、きっとスタッフは丁寧だろう。求められることは、思ったほど多くないかもしれない。

それでももう、昨日までのようには待たない。

ここまで来たのだから、どこまで行くかは自分で決める。

二日目の朝、スタジオの空気は昨日と少し違っていた。

ディレクターが結衣のほうを見て、少し迷うように口を開いた。

「昨日の結衣さんの様子を見て、少しだけ予定を変えようと思う。無理はさせない。でも、もし結衣さんももう少し行けるって感じるなら、最後のシーンで男優さんを入れてみたい。手だけ、触れるくらいから。大丈夫そう?」

結衣は一瞬、言葉を失った。想定していなかった。本当に、そこまでは考えていなかった。

でも、昨日自分で踏み出した一歩が、今こうして返ってきている気がした。断ることもできた。現場は丁寧だと、すでに知っている。

「……大丈夫です。やってみます」

声が少し上ずった。自分でも意外な返事だった。

男優は穏やかな人だった。挨拶を交わし、簡単な打ち合わせをしたあと、ベッドのシーンに入った。最初は距離を保ったまま、カメラが結衣を捉える。結衣は息を整え、昨日と同じように自分から姿勢を作った。

やがて男優の手が、ゆっくりと彼女の肩に触れた。

温かかった。

予定されていた以上のことはしない、と事前に言われていたのに、触れた瞬間、結衣の身体は小さく強張った。指先が肩から鎖骨へ滑る。息が止まる。怖い。でも、拒む気にはなれなかった。

手が肩紐に触れ、ゆっくりとずらす。結衣は目を閉じ、そのまま身を委ねた。撮影だと分かっていても、触れられる感触は現実だった。胸の奥で何かがざわつき、同時に、ここまで来てしまった自分を受け入れようとしている自分がいた。

「大丈夫?」と小さく聞かれて、結衣は短く頷いた。

その手前で止まることもできた。けれど、結衣は目を開け、レンズの向こうを見た。昨日決めたことと同じだった。もう少し。どこまで行くかは、自分で決める。

男優の手が彼女の膨らみに回ったとき、結衣は小さく息を吐いた。葛藤は残っていた。それでも、身体は少しずつ熱を帯び、拒む力を失っていった。指先が柔らかい部分をなぞり、乳房を支える。結衣の肩がわずかに震える。声には出さない。ただ、目を閉じたまま、その熱に身を預けた。

カットの声がかかるまで、結衣はそこに身を置いていた。

2日間の撮影が終わった夜、結衣は再び鏡の前に立った。

昨日までの自分とは、少し違う顔が映っていた。怖さは消えていない。でも、選んだのは自分だった。

もう少しの手前で止まったわけではない。 ただ、自分の足で、そこまで歩いただけだった。