04 / FICTION

SLENDER IV.com / 書き下ろし官能小説

休憩10分

旅行バスの短い休憩で、言葉より先に近づく二人

旅行バスで隣り合った二人は、十分間の休憩を前に、偶然では済まない距離に気づいていく。

創作であること

この物語は作品から着想を得た独立したフィクションです。出演者本人の心情や実際の出来事、レビュー対象の固有場面を示すものではありません。

この小説は、作者自身のアイデアと構想をもとに、AIの支援を受けながら文章化・推敲しています。

WRITTEN FOR SLENDER IV.com

バスが高速道路に入ってから、二人の距離は少しずつおかしくなっていた。 最初は、ただ隣り合っただけだった。 窓側の男と、通路側の女。 けれどカーブで肩が触れても、どちらも以前ほど慌てて離れなくなった。 一度、女の膝が男の脚に当たった。 「ごめんなさい」 そう言いながら、女はわずかに足を戻した。 けれど完全には離れなかった。 男も動かなかった。 しばらくしてバスが揺れ、もう一度触れる。 今度は謝らなかった。 二人とも前を向いている。 ガイドの説明が車内に流れていたが、女はほとんど聞いていなかった。 膝の上には開いたガイドブック。 その端から落ちた女の手が、座席の隙間に置かれた。 男の手もそこにあった。 指先が触れた。 偶然なら、どちらかが引けばいい。 それなのに、二人とも引かなかった。 男の指がほんの少し動く。 女も応えるように指先を返した。 手を握るほどではない。 けれど、もう偶然とは言えなかった。 女が男を見る。 男もこちらを見ていた。 数秒だけ視線が重なる。 「眠くないんですか」 男が小さく訊いた。 「全然」 女も小声で答えた。 それだけだった。 けれど、それ以降、二人の間では言葉より身体の距離の方がはっきりしていた。 男が窓の外を見るふりをして体を戻すたび、肩が触れる。 女も避けない。 膝も離れない。 一度だけ、女の手が男の手の甲を覆った。 ほんの二、三秒。 そして何事もなかったようにガイドブックへ戻った。 男が笑った。 女も笑った。 もう二人とも分かっていた。 やがて車内にアナウンスが流れた。 「十分間の休憩です。出発時間に遅れないようお願いします」 バスがサービスエリアへ入っていく。 停車すると、乗客が次々に立ち上がった。 女も席を立った。 通路へ出る直前、男を見る。 男は座ったまま女を見上げていた。 女は何も言わない。 そのままバスを降りた。 売店へ向かう人の流れから離れ、トイレの方へ歩く。 入口近くで、一度だけ振り返った。 男がいた。 少し離れたところからこちらを見ている。 目が合う。 女はすぐに視線を戻した。 けれど歩みは止めなかった。 広いトイレの前まで来る。 一瞬だけ迷ったあと、女は中へ入り、扉を閉めた。 鍵はかけなかった。 自分でも、それが答えなのだと分かっていた。 十数秒。 外に気配がする。 扉が開いた。 男だった。 二人とも何も言わない。 男が中へ入り、扉を閉める。 今度は鍵がかかった。 小さな電子音が、妙にはっきり聞こえた。 広い室内だった。 白い壁。 手すり。 洗面台。 明るすぎる照明。 隠れる場所などどこにもない。 だからこそ、現実感があった。 女と男は少し離れた場所に立ったまま、互いを見る。 バスの中では、あれほど遠回しだった。 今はもう必要なかった。 男が一歩近づく。 女は動かない。 さらに一歩。 女の背中が壁に近づいた。 「……十分しかないよ」 女が言った。 男は答えなかった。 女も答えを求めてはいなかった。 二人の距離がなくなる。 口づけは、確かめるように短かった。 一度離れる。 女が男を見る。 その顔を見た瞬間、今度は女の方から距離を詰めた。 さっきとは違った。 バスの中で何度も寸前で止めてきたものが、一気にほどける。 女の手が男の服を掴む。 男の腕が女の背中へ回る。 外を誰かが通った。 二人は同時に動きを止めた。 足音が遠ざかる。 顔を見合わせる。 女が笑いそうになって、慌てて口元を押さえた。 男も声を殺して笑った。 その瞬間だけ、ひどく可笑しかった。 けれど次に目が合うと、笑いはすぐ消えた。 二人とも、自分たちが何をしているのか分かっていた。 それでも離れなかった。 ――そして数分後。 女が先に鏡の前に立った。 髪を整える。 頬に手を当て、何度か深く息をする。 男は少し離れたところで服装を直していた。 二人とも、もうほとんど喋らなかった。 女が時計を見る。 「戻ろう」 男が頷く。 女が先に出る。 数分前までのことなど何もなかったような顔で、売店の前を通り、バスへ向かう。 少し遅れて男も戻った。 車内では、二人は元の席に座った。 女はガイドブックを開く。 男は窓の外を見る。 エンジンがかかる。 バスがゆっくり動き出した。 会話はなかった。 しばらくして、座席の間へ女の手が落ちた。 数秒後。 男の小指が、その指先に触れた。 女はガイドブックを見たまま、今度は手を引かなかった。