04 / FICTION

SLENDER IV.com / 書き下ろし官能小説

寮を出た女子大生が草食系のおじさんを持ち帰ったら実は本職でした

レビュー作品とは独立した短編小説です。

創作であること

この物語はレビュー記事と組み合わせた独立小説です。レビュー対象作品からの着想や、出演者本人の心情・実際の出来事・固有場面を示すものではありません。

この小説は、作者自身のアイデアと構想をもとに、AIの支援を受けながら文章化・推敲しています。

WRITTEN FOR SLENDER IV.com

大学三年になった春、千紘は学生寮を出た。

理由を友達には、「そろそろ一人暮らししてみたくて」と説明した。

嘘ではない。

好きな時間に風呂へ入れる。夜中に動画を見ても文句を言われない。冷蔵庫のプリンに名前を書かなくてもいい。

ただ、本当の理由を一つだけ挙げろと言われたら、もっと単純だった。

男を連れ込めるから。

寮ではそうはいかなかった。

門限こそ緩かったものの、異性を部屋に入れるなんて論外だったし、同じフロアには大学の知り合いもいる。どこで誰に見られるか分からない。

だから一人暮らしを始めた最初の夜、狭いワンルームの真ん中に座って、千紘は妙な解放感を覚えた。

この部屋なら、誰を呼んでもいい。

それから半年。

その自由は、思った以上に楽しかった。

サークルの飲み会で知り合った男。

友達に紹介された男。

バイト先に来た客。

マッチングアプリで見つけた社会人。

一度きりもいれば、二、三度来た男もいる。

千紘は恋人が欲しいわけではなかった。

むしろ恋人になると面倒だった。

それより、会いたいときに会って、楽しい時間だけ過ごして帰ってもらうほうが性に合っていた。

自分は案外、こういうのに向いている。

千紘はそう思っていた。

男を見る目もある。

扱い方も分かっている。

どう笑えば喜ぶかも、どこまで近づけば向こうが勘違いするかも。

少なくとも、同年代の女の子よりはずっと経験豊富だ。

そんな自負があった。

だからこそ。

最近、退屈だった。

「……なんか、同じなんだよな」

日曜の午後、ベッドでスマートフォンを眺めながら独り言が漏れた。

昨夜来ていた男は悪くなかった。

顔も悪くないし、話も面白かった。

それでも朝になって帰っていく背中を見ても、何も残らなかった。

誰を呼んでも似ている。

男のほうも千紘の雰囲気を見て、最初から期待してやって来る。

少し駆け引きをして、結局予想どおりの夜になる。

刺激がない。

千紘はスマートフォンを腹の上に置いた。

刺激。

その言葉を何度か頭の中で転がしていて、不意に思いついた。

「逆か」

遊び慣れた男ばかり選んでいるから飽きるのだ。

だったら。

女慣れしていない男を選んだらどうなるだろう。

いかにも草食系。

自分から女に声をかけるなんて絶対できなさそうで、ちょっとからかうだけで困ってしまう男。

そんな相手を自分から誘う。

部屋まで連れてくる。

どうしていいか分からない相手を、自分がリードする。

想像しただけで、少し楽しくなった。

「それ、いいかも」

千紘は笑った。

*

その男を見つけたのは、それから一週間ほど後だった。

友人と夕食を食べ、二軒目まで付き合って別れた夜。

千紘は一人でもう一杯だけ飲みたくなり、駅近くの小さなバーへ入った。

そこでカウンターの端に座っていたのが、その男だった。

第一印象は、

地味。

黒っぽいパンツに、薄いグレーのシャツ。

細いフレームの眼鏡。

髪も特に洒落ているわけではない。

一人で静かに酒を飲みながら、ときどきスマートフォンを眺めている。

年齢はよく分からなかった。

三十代前半にも見える。

もっと上にも見える。

お兄さんと言うには少し落ち着きすぎていて、おじさんと言うには若い。

そして何より。

女に慣れていなさそうだった。

千紘は自分のグラス越しに何度か観察した。

目が合う。

男はすぐ逸らした。

当たりだ。

そう思った。

千紘は自分のグラスを持って、一つ席を空けた隣へ移った。

「一人ですか?」

男は少し驚いて千紘を見た。

「え?」

その反応だけで、千紘は心の中で笑った。

「一人で飲んでるんですか?」

「ああ。はい」

敬語だ。

ますますいい。

「私も一人になっちゃって」

「そうなんですか」

会話は決して上手ではない。

聞けば答える。

けれど自分からぐいぐい質問してくることもない。

名前は佐伯。

三十六歳。

会社員だと言った。

「私、二十一」

「若いですね」

「嫌?」

「いいえ」

佐伯は困ったように笑った。

その笑い方まで、千紘の想像していた草食系そのものだった。

一時間ほど話した。

佐伯は聞き役に回ることが多かった。

千紘が大学の話をすると笑い、バイトの愚痴を言えば相槌を打つ。

自慢話もしない。

下心を見せてくることもない。

千紘はますます楽しくなっていた。

この人、本当に自分から何もしないんだ。

店を出たところで、千紘はわざと少し黙ってから言った。

「私の家、ここから近いんだけど」

佐伯がこちらを見る。

「飲み直さない?」

さすがに意味は分かったらしい。

一瞬、佐伯の顔から笑みが消えた。

「いいんですか」

「誘ってるんだけど」

「ですね」

それでもまだ戸惑っている。

かわいい。

千紘はそう思った。

*

部屋に着いてからも、主導権は完全に千紘にあるように見えた。

冷蔵庫から缶を二本出し、一つを佐伯へ渡した。

佐伯は部屋を見回しながら、

「一人暮らし?」

と聞いた。

「そう。寮だったんだけど出たの」

「なんで?」

千紘は缶を開けながら笑った。

「自由になりたかったから」

「なるほど」

「何その顔」

「いや、分かりやすいなと思って」

少しだけ。

ほんの少しだけ、千紘は引っかかった。

それまでの佐伯とは違う言い方だった。

しかしすぐに気のせいだと思った。

千紘は佐伯の隣へ座った。

わざと近く。

佐伯は逃げなかった。

「緊張してる?」

「少し」

「かわいい」

「三十六に言う言葉じゃないでしょう」

「だってかわいいし」

千紘は笑いながら、さらに距離を詰めた。

ここから先も、自分が進めるつもりだった。

最初から最後まで。

今日くらいは、全部自分の好きなようにしてみよう。

そう思っていた。

*

最初に予想が外れたのは、佐伯がシャツを脱いだときだった。

千紘は、一瞬何も言えなかった。

服を着ていると全く分からなかった。

細身だと思っていた身体には、派手ではないがはっきりと筋肉がついている。

肩。胸。腹。

見せるために作った身体というより、長い時間をかけて維持している身体だった。

「……何それ」

思わず声が出た。

佐伯が自分の身体を見る。

「何って?」

「鍛えてるの?」

「まあ」

「会社員だよね?」

「会社員でも運動くらいするよ」

千紘は少し悔しくなった。

一つ目の想定外。

でも、まだ大丈夫だ。

身体がいいから何だ。

経験があるとは限らない。

そう思って、千紘はまた自分から近づいた。

ところが。

二つ目の想定外は、その直後に来た。

佐伯が、まったく慌てなかった。

千紘が主導しているはずなのに、いつの間にか佐伯がこちらの反応を見ている。

焦ることもなく。

強引でもなく。

ただ、妙に落ち着いている。

千紘が少し笑えば、それを見る。

息が変われば、それにも気づく。

何かを我慢しようとすれば、それさえ見抜かれているような気がした。

「……何?」

千紘が訊いた。

「別に」

佐伯が笑う。

さっきまでの困ったような笑い方ではなかった。

千紘は初めて思った。

この人。

もしかして。

草食系ではない?

それでも、引く理由にはならなかった。

身体がいい男を、部屋まで連れてきただけだ。

リードするのは自分のほうだ。

千紘は佐伯の胸に掌を当て、そのままベッドへ押し倒した。

シャツ越しに伝わる厚みに、指先がわずかに沈む。

「ねえ、そんなに緊張しなくていいよ」

耳の近くで、いつもの声を出した。

熱い息をわざとかける。

佐伯の肩が、小さく動いた。

――ほら。

やっぱり、そうだろう。

千紘は自分にそう言い聞かせて、シャツの裾に手を入れた。

生地が肌を擦れる音まで、相手を焦らすためのものだと思っていた。

服を脱がせ、露わになった肌に指を滑らせる。

胸の突起を爪先で軽く弾き、腹筋の溝をなぞる。

佐伯は小さく息を漏らした。

「んっ……」

その声に、千紘は満足した。

太ももを脚で挟み、耳たぶを甘噛みする。

「ほら、ここ弱いんでしょ。正直なんだからぁ」

いつもの夜と同じだ。

相手を先に崩して、それから好きにする。

その手順を、千紘は何度も繰り返してきた。

次の瞬間、腰の付け根に太い指が食い込んだ。

ただ触れた、という感じではなかった。

自分でも意識していなかった場所を、指の腹でグイと押し込まれ、円を描くように弄られた。

背筋に、電気が走った。

身体が、勝手に跳ねた。

「……っ、え、ちょっ。どこ触って……んっ!」

見上げる。

眼鏡の奥にあった、おどおどした目はもうなかった。

獲物を測る目だった。

「ここ、弱いんですね。千紘さん」

低い声。

同時に、手が脇腹から肋骨へ沿って上がってくる。

皮膚をかすめるたびに、小さな火花が散るようだった。

緩急がある。

どこを、どれだけの強さで、どの速さで、と計算されているみたいだった。

腰が、わずかに浮く。

(なに、これ。触られてるだけなのに)

今までの男は、もっと雑だった。

胸を揉んで、そこを弄ればいい、くらいの感覚で動いていた。

佐伯の手は違った。

千紘の身体が、次にどう反応するかを、先に知っているみたいだった。

「あ、うっ。そこ、だめ……っ、ひゃうんっ」

膝の裏を握られ、内腿を弾かれる。

想定していない角度だった。

声が、高く上ずる。

自分の声とは思えなかった。

「いい声。もっと聞かせてください」

嘘だ、と思いたかった。

偶然だ、と思いたかった。

うなじを吸われた瞬間、その両方とも消えた。

思考が白くなる。

舌が耳の淵をなぞり、鎖骨へ降りる。

吸われるたびに身体が跳ね、太ももの内側がじっとりと熱を持った。

そして、手が一番深いところへ伸びた。

指先が触れただけだった。

それなのに、腰が震えた。

外側から円を描かれ、じわじわと近づいてくる。

焦らされている、と分かっていながら、千紘は自分から腰を動かした。

「早く……っ、お願い、早くして」

許されなかった。

絶頂の手前で指が離れ、軽く弾かれるだけになる。

「……っ、な、んで。止めるの。お願い、続き……っ」

腕にすがる。

リードしていたはずの手が、いまは相手の腕にしがみついているだけだった。

目尻が熱い。

「お願い、って。可愛いですね」

耳元でそう言われて、指が二本、入ってきた。

角度も、深さも、速さも、逃げ場がなかった。

内側を掻き回されるたびに、芯から熱が弾ける。

「あ、あああっ。やだ、もう。おかしくなるぅっ」

視界がちらつく。

熱いものが溢れ、腰が痙攣する。

なのに、止まらない。

余韻に浸る暇もなく、刺激だけが続く。

空いたほうの手が胸を掴む。

上下から同時に来て、頭の中が真っ白になった。

「あうっ、あああっ。もう、だめ。おかしくなるっ」

一度で終わらなかった。

二度。三度。

意識が飛びかけるたびに、絶妙なタイミングで引き戻される。

自分の経験も、手順も、今夜こうなるはずだった物語も、快感で上書きされていく。

全部、読まれている。

そのことが、恥ずかしくて、同時に、どうしようもなく気持ちよかった。

もう、自分から進めることなんて考えられなかった。

ただ、このままにされることだけを、身体が求めていた。

*

いつの間にか、千紘は佐伯の胸に顔を埋め、荒い息だけを繰り返していた。

指一本、動かす気が起きない。

汗ばんだ肌が密着し、互いの鼓動が伝わってくる。

ふと顔を上げると、佐伯はまだ落ち着いて千紘を見ていた。

呼吸こそ乱れているが、目には余裕がある。

(……最悪。完敗じゃない)

その言葉が、今は甘く残った。

しばらくして。

千紘はベッドの上で仰向けになり、天井を見つめていた。

身体を起こす気にならなかった。

隣では佐伯が平然と起き上がっている。

「……ねえ」

「ん?」

「本当に三十六?」

佐伯が笑った。

「そこ疑う?」

「だって、おかしいもん」

「何が」

「全部」

佐伯は答えず、床に落ちていたシャツを拾った。

その動きまで余裕があることが腹立たしい。

千紘は枕を抱き寄せた。

「絶対、普通じゃない」

「普通だよ」

「嘘」

佐伯がシャツを羽織る。

千紘はその背中を見ながら思った。

さっきまで自分がこの男を「かわいい」と思っていたのが信じられない。

「千紘ちゃんさ」

「何」

「結構遊んでるでしょ」

千紘の眉が動いた。

「……悪い?」

「悪いなんて言ってない」

佐伯はボタンを留めながら言った。

「この部屋にも、結構男呼んでるでしょ」

「何で分かるの」

「なんとなく」

「感じ悪」

「ごめん」

そう言いながら、佐伯は少し笑っている。

千紘はむっとした。

けれど否定はできなかった。

「でも」

佐伯が続ける。

「こんなにしてくれる男、今までいなかったでしょ」

千紘は黙った。

即答できなかった時点で、答えは出ていた。

佐伯も追及しない。

ただ、

「そろそろ、ちゃんとしてくれる人探しな」

と言った。

「何それ」

千紘は笑おうとした。

うまく笑えなかった。

「急に説教?」

「説教じゃないよ」

「じゃあ何」

「遊ぶのは好きにすればいいと思う。ただ、雑に扱う男ばっかり選ばなくてもいいでしょ」

妙に真面目なことを言う。

千紘はしばらく佐伯を見ていた。

そして。

自分でも驚く言葉が口から出た。

「じゃあ」

佐伯がこちらを見る。

「これからも会ってよ」

言ってから、千紘自身が固まった。

こんなこと。

今まで一度も言ったことがない。

男のほうから「また会おう」と言われることはあった。

適当に返事をして、そのまま連絡しなくなることも多かった。

自分から頼んだことなんてない。

佐伯は少しだけ驚いた顔をした。

それから、静かに笑った。

「それは無理」

「なんで?」

「俺、プロだから」

千紘は瞬きをした。

「……は?」

佐伯は時計を腕につけた。

「じゃあね」

「ちょっと待って」

「何?」

「プロって何の?」

佐伯は玄関へ向かう。

「佐伯さん」

「名前も本名か分かんないからね」

「え?」

振り返った佐伯が笑った。

その瞬間。

千紘は本当に何も言えなくなった。

扉が閉まった。

*

五分後。

千紘はベッドの上でスマートフォンを握っていた。

検索欄に文字を入れる。

『男性 プロ 女性向け』

検索。

違う。

『女性向けサービス 男性 セラピスト』

検索。

知らないサイトが大量に出てきた。

男の写真が並ぶ。

違う。

次。

違う。

次。

『佐伯 女性向け セラピスト』

当然出てこない。

そもそも佐伯が本名なのかさえ怪しい。

『三十六歳 セラピスト 男性』

何をしているんだ私は。

千紘はスマートフォンを放り投げた。

そして三分後にはまた拾った。

一週間経った。

佐伯は見つからなかった。

二週間経った。

やはり見つからなかった。

千紘は、あの夜を過ごしたバーにも二度行った。

いなかった。

一か月後。

千紘はベッドに寝転がり、ノートパソコンで動画を眺めていた。

一人暮らしを始めて以来、この部屋にはずいぶんいろんな男が来た。

なのに。

あの夜以降、一人も呼んでいない。

誘われなかったわけではない。

大学の友人から連絡も来た。

アプリを開けば、会おうと言ってくる男はいくらでもいた。

でも写真を見るたびに思ってしまう。

違う。

たぶん違う。

画面の動画を再生する。

しばらく眺める。

そして結局、動画とは関係のない男を思い出す。

地味なシャツ。

眼鏡。

最初に見た、困ったような笑顔。

そして。

あの余裕。

千紘は動画を止めた。

スマートフォンを取る。

検索欄には、途中まで入力された文字が残っていた。

『女性向け 男性 セラピスト』

「……プロって、何のプロなんだよ」

呟いて、検索する。

今日も見つからない。

たぶん明日も検索する。

そして夜になれば動画を見て。

また思い出す。

男を自由に連れ込むために借りたはずの部屋で。

千紘は今日も、一人の男のことばかり考えていた。