SLENDER IV.com / 書き下ろし官能小説
催眠のせい
書き下ろし官能小説
伸び悩むタレント・美咲は、注目を集める番組の収録で、自分が選びたい見せ方と向き合う。
この物語は作品から着想を得た独立したフィクションです。出演者本人の心情や実際の出来事、レビュー対象の固有場面を示すものではありません。
この小説は、作者自身のアイデアと構想をもとに、AIの支援を受けながら文章化・推敲しています。
WRITTEN FOR SLENDER IV.com
美咲は、自分が売れない理由を分からないままにしておけなかった。
まったく売れていないわけではない。ウェブ番組に呼ばれることは増えたし、名前を検索すれば、自分の写真を使った投稿も見つかる。グラビアに出た時も評判は悪くなかった。
けれど、その先がない。
番組が終われば、少しだけ数字が増える。数日で止まる。マネージャーはいつも、悪くなかったと言う。
美咲はその言葉が嫌いだった。
悪くない、で終わるなら、何も変わらない。
自分はもっとできる。そう思っていた。
食事も肌も髪も、見えないところまで気をつけている。現場では笑う。急な振りにも応える。不機嫌な顔をしたことはない。
それでも、美咲はいつも感じのいい子だったね、とまとめられる。
そんな時に、少し際どいことで知られる人気ウェブ番組から出演依頼が来た。
企画は催眠術だった。
撮影前に、ディレクターは丁寧に説明した。
催眠術そのものを信じてもらう企画ではないこと。演技として、少し恥ずかしい姿勢を取る場面があること。嫌なことがあれば、その場で止められること。女性スタッフも横で確認してくれること。
美咲は契約書を読んでから頷いた。
「大丈夫です。面白くできるように頑張ります」
本当にそう思っていた。
スタジオにはカメラが二台あり、照明と音声と、思ったより多くの大人がいた。美咲はそれを少しだけ意外に思ったが、赤い録画ランプがつくと、すぐに仕事の顔になった。
催眠術師役の男が、ゆっくり指を動かした。
「だんだん、身体の力が抜けていきます」
美咲はまぶたを重くし、肩を落とした。
眠そうにする。反応を少し遅らせる。言われた通りに動く。
簡単だった。
椅子に座らされ、足の位置を変える。スカートの裾がわずかに動く。画角に下着の端が入るかもしれない、と説明された場所だった。
それでも、モニターの前にいる人たちは淡々としていた。
「はい、いいですね。次いきましょう」
またこれだ、と美咲は思った。
悪くない。可愛かった。感じのいい子。
それで終わる。
次の指示で、美咲は予定よりほんの少しだけ大きく動いた。
自分にしか分からない程度だった。けれど、スカートの裾は少し余計に上がった。
空気が変わった。
カメラマンの手が止まり、ディレクターがモニターから目を上げる。催眠術師役の男まで、一瞬だけ美咲を見た。
美咲は目を閉じたまま、その変化を受け取った。
ようやく、全員が私を見た。
驚くほど気持ちよかった。
「そのまま、もう少し足を楽にしてください」
美咲は従った。今度はゆっくり動いた。
視線がある。誰がどこを見ているのかまでは分からない。でも、さっきまでの仕事の顔が少しだけ崩れたことは分かった。
これは仕事。
売れるため。
そう思えば、恥ずかしさは少し遠くなる。
美咲は次から、ほんの少しずつ自分で演出を足した。顔を伏せる角度。脚の位置。肩を落とすタイミング。
普段からカメラの前に立つので、どうすれば映るかは知っている。
その日初めて、どうすれば人の視線が止まるのかも、少し分かった。
予定にない仕草をもう一つ足したところで、ディレクターが手を上げた。
「一回、止めます」
赤いランプが消える。
女性スタッフが美咲のそばに来た。
「美咲さん、少し確認していいですか」
美咲は、催眠にかかった顔をやめて彼女を見た。
「さっきから、美咲さんが自分で足してくれている演出がありますよね。嫌なことを無理にしていないかだけ、確認したくて」
その言い方に、美咲は少し拍子抜けした。
誰かに止められると思っていた。あるいは、もっとやって、と言われると思っていた。
でも、聞かれたのは、嫌ではないかということだった。
「嫌じゃないです」
答えてから、美咲は続けた。
「むしろ、もう少しちゃんと撮ってほしいです」
ディレクターはすぐに頷かなかった。
「どんな見せ方を考えていますか」
美咲は、そこで初めて自分の案を言葉にした。
ただ指示に従うのではなく、催眠にかかっているふりをしたまま、自分が選んだ動きでカメラに近づくこと。下着を見せるためではなく、どこまで見せるかを自分で決めること。途中で嫌になったら、すぐにやめること。
女性スタッフが確認し、ディレクターがカメラの位置を変えた。
「分かりました。美咲さんが合図を出してください」
二度目の録画ランプが灯る。
美咲は目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
私は美咲じゃない。
催眠にかかっている女だ。
そう言い聞かせると、普段の自分なら選ばない仕草にも、手が届く気がした。
けれど、カメラへ向き直った瞬間に、美咲は気づいた。
隠れているのではない。
催眠のせいにしているだけで、選んでいるのは自分だった。
そのことが怖かった。
同時に、少しだけ嬉しかった。
撮影が終わる頃、ディレクターはモニターを見ながら言った。
「今日の美咲さんは、ちゃんと残ると思う」
悪くなかった、ではなかった。
美咲は頷いた。
帰りの車で、マネージャーから連絡が入った。
「どうだった?」
美咲は、しばらく返信できなかった。
売れるかどうかは、まだ分からない。
切り抜きが回るかもしれないし、何も起きないかもしれない。
それでも、今日の自分は、ただ感じのいい子で終わらなかった。
画面の向こうに何を残すかを、自分で選んだ。
美咲はようやく、短く返した。
「思ったより、ちゃんとできた」