04 / FICTION

SLENDER IV.com / 書き下ろし官能小説

男にはもう会わないと決めた女性取締官が、呼び出しを断れず自分から理性を捨てに行った話

レビュー記事と組み合わせた独立小説です。

レビューとあわせて読める独立した物語です。レビュー対象作品からの着想や、出演者本人の出来事を示すものではありません。

創作であること

この物語はレビュー記事と組み合わせた独立小説です。レビュー対象作品からの着想や、出演者本人の心情・実際の出来事・固有場面を示すものではありません。

この小説は、作者自身のアイデアと構想をもとに、AIの支援を受けながら文章化・推敲しています。

WRITTEN FOR SLENDER IV.com

久我悠真。

その名前を資料の中に見つけた瞬間、私はページをめくる手を止めた。 ほんの一秒だったと思う。 それでも隣の席の人間に気づかれたんじゃないかと思って、すぐに次のページへ進んだ。

地方厚生局麻薬取締部。 そこで働き始めて八年になる。 動揺を顔に出さないことには慣れている。 というより、自分はそういう人間だと思っていた。 感情と仕事は別。 どんな相手でも、事実を事実として見る。 好き嫌いで判断を変えない。 ずっとそうしてきた。 なのに。

会議が終わって自席へ戻ってからも、さっきの名前が頭から消えなかった。

久我悠真。 三十五歳。 会員制ラウンジ経営。 薬物の流通に関与している可能性がある人物との接点あり。 まだ捜査対象と決まったわけではない。 ただの周辺人物かもしれない。 その程度だ。 だから。

まだ報告しなくてもいい。

私はそう考えた。 考えてから、自分が今何を考えたのかに気づいた。 本来なら違う。 名前を見た時点で、自分がその男と私的な関係にあることを上司へ伝えるべきだった。 分かっている。 でも私は言わなかった。 まだ何も確定していないから。 そう自分に言い聞かせた。

その日の仕事は、いつも以上に完璧に終わらせた。 書類も残さなかった。 確認事項も全部片づけた。 定時を少し過ぎたころ、スマホが震えた。 画面を見る。 久我だった。

『今夜、来る?』

それだけ。 私はしばらく画面を見ていた。 断ればいい。 それだけだった。

『今日は無理』

そこまで打った。 送信する直前で指が止まる。 消した。

代わりに、 『話がある』 と打った。

返事はすぐに来た。

『じゃあ来れば』

腹が立った。 何、その言い方。 来てほしいとも言わない。 会いたいとも言わない。 私が断れば、それで終わるみたいな言い方。

スマホをバッグへ突っ込んだ。 今日は話をするだけ。 彼の名前がどうして資料に出たのか。 最近何か変わったことがなかったか。 それを確認する。

私は捜査情報を話すわけじゃない。 ただ聞くだけ。 むしろ何か分かるかもしれない。

そこまで考えて。

私は自分でも笑いそうになった。 随分便利な言い訳だ。 それでも電車に乗った。

*

久我の部屋へ来るのは初めてではなかった。

インターホンを押す。 すぐにドアが開く。

「お疲れ」

いつもと同じだった。 黒いTシャツ。 少し伸びた髪。 低い声。 私は中へ入った。

ドアが閉まる。

「飲む?」

「いらない」

「そう」

久我は何も聞かなかった。 私はバッグをソファの横へ置いた。

「話があるって言ったでしょ」

「聞いてるよ」

「最近……何かない?」

「何かって?」

「面倒なこととか」

久我が私を見る。 一瞬。 本当に一瞬だけ。 何かを見透かされた気がした。

でも彼は、

「いつも面倒なことばっかりだよ」

と笑った。

「そうじゃなくて」

「じゃあ何?」

言えない。 あなたの名前が資料に出てきた。 そんなことを言えるはずがない。

私は黙った。 久我も聞かない。

やっぱりこの男は何か知っているんじゃないか。 そう思った。 でも。

もし私の仕事を知っているなら。 もし私を利用するつもりなら。 どうして何も聞いてこない?

「玲奈」

名前を呼ばれた。 私は顔を上げる。 久我がすぐ近くにいた。 いつの間に。

「何」

「今日、変だな」

「変じゃない」

「そう?」

彼の指が、私の髪に触れた。 その瞬間。 身体が反応した。 嫌になるくらい、はっきり。

私は一歩下がった。

「今日はそういうつもりじゃない」

久我は私を見た。 それから、あっさり手を離した。

「じゃあ帰れば」

玄関のほうへ顎を向ける。 道は空いていた。 私はドアを見た。 帰ればいい。 今すぐ。

ここへ来た目的は、もう果たせない。 彼は何も話さない。 これ以上ここにいる理由なんてない。 なのに。

足が動かなかった。 久我が少し笑った。

「何?」

「……何でもない」

「帰らないの?」

腹が立った。 その余裕が。 私なら帰れないと思っているみたいで。

「帰る」

言った。 でも動かなかった。 久我も動かない。

部屋が妙に静かになった。 私は分かっていた。 ここが最後だ。 今ならまだ帰れる。

帰れば。 明日からまた私は、いつもの自分でいられる。 正しいことをして。 正しい判断をして。 間違えない人間でいられる。 それなのに。

私は久我から目を逸らさなかった。 彼がもう一度、ゆっくり私のほうへ歩いてきた。

*

だめだ、と分かっていた。 分かっているのに、顔が近い。 息がかかる。 久我は待っているだけだ。 拒否するなら、今だ。 言葉も、手を突くことも、まだ間に合う。

なのに私は、その距離を拒めなかった。 唇が触れる。 確認するようなキス。

私は目を閉じたまま、首を引かなかった。 引くべきなのに、引けない。 それだけで、今日ここに残る意味が決まっていく。

離れたあと、久我が私の目を見る。 何も言わない。 身体が先に答えている。 胸の奥が、仕事のときの自分とは違う速さで鳴っている。 隠せると思っていた。 隠せなかった。

私は、少しだけ前へ出た。 自分からだった。 指先が、彼のTシャツの裾に触れる。 それ以上はしない。 それでも、下がった距離は戻らなかった。

二度目のキス。 舌が入ってくる。

私は受けた。

受けたまま、肩に手が回るのを止めなかった。 久我の掌が背中を撫でる。

ゆっくりだ。 余計に効いた。 呼吸が乱れる。 乱れているのが、自分でも分かる。

「今日は、そういうつもりじゃないって」

私が言った。 声が、思ったより弱かった。

「分かってる」

「なのに」

「なのに、残ってる」

否定できなかった。 否定するなら、さっき帰ればよかった。

キスが続く。 唇が離れては、また重なる。 そのあいだに、久我の手が腰へ落ちる。 ブラウスの上からでも、熱が通る。 私は彼の胸に額をつけた。 逃げているようで、近づいている。 その中途半端さが、自分で嫌だった。

なのに、手が動く。 Tシャツの裾から、腹へ指を入れる。 皮膚が熱い。 久我が小さく息を吐く。 その反応が、頭より先に下腹へ落ちた。

徐々に、身体のほうが先に決まっていく。 キスが長くなる。 歯が当たる。 私は彼の髪に指を入れた。 離したくない、というより、離す理由を探すのが面倒になった。

「玲奈」

「……何」

「まだ帰れるよ」

その言葉が、逆だった。 帰れると言われると、帰れなくなる。 私は久我の唇を塞いだ。

自分から舌を入れた。 我慢が切れた音が、喉の奥から出た。

Tシャツをたくし上げる。 久我は腕を上げて、それを通した。 肌が見える。 私は胸に掌を当てた。 心臓の音が、手のひらに来る。

仕事の書類の上では、この男はただの名前だった。 今は違う。 熱がある。 匂いがある。 触れれば、応える。

ソファの縁に膝が当たる。 久我が座る。

私は間に立ったまま、ベルトに手をかけた。 外す。

下着の上からでも、形が分かる。 私は一度だけ顔を上げた。

久我は何も言わない。 見ているだけだ。 その目が、最後の踏みとどまりを崩した。

膝をつく。 出す。 熱い。 唇をつけた瞬間、久我の腿に力が入るのが分かった。 私はゆっくり含んだ。 浅いところから、奥へ。 舌を添える。 自分でも、今日は丁寧すぎると思った。 丁寧にしているあいだだけ、考えなくて済む。

「ん……」

鼻から息を吐く。 久我の手が、髪を撫でる。 強制しない。 なのに、頭を押さえられるより効いた。 私はリズムを上げた。 音がする。 卑猥な音だった。 それでも止めなかった。

途中で、現実が横から刺さる。

「こんなことしてる場合じゃない」

口を離して、そう言った。 声が掠れている。

「もう会わないつもりだった」

言った直後、私はまた含んだ。 さっきより深く。 喉の奥まで近づける。 止めなければならない、と頭が言っている。 手が、無意識に彼の腿を掴んでいる。 両方、本当だった。

久我が前へ屈む。 私の頬に指が触れる。

「立つ」

言われて、口を離す。 引き上げられる。 キスされる。 自分の味がした。 そのキスのあいだに、スカートの中へ手が入る。 下着の上から、入り口を押される。 もう熱い。 濡れているのが、布越しでも分かる。

「隠れてない」

久我が言う。

「黙って」 「黙らない」

指が中へ滑る。

私は彼の肩に顔を埋めた。

「んっ……」

声が出る。 仕事のときの声ではない。

ソファに座らされる。 脚を開かれる。 久我が膝をついて、下着をずらす。 舌が当たる。 クリトリスを、ゆっくり舐める。 私はクッションを掴んだ。

「待って……」

待って、と言いながら、腰が前へ出る。 矛盾している。 分かっている。 それでも、脚を閉じなかった。

私も手を伸ばす。

久我を握る。

舐められながら、動かす。

互い違いの刺激が重なる。

頭が白くなる。

「もう、会わないつもりだったのに」

また言った。 言った口で、彼の髪を掴む。 離すな、という動きだった。

我慢ができなくなった。 自分からベルトの残りを外し、久我をソファへ押し返すようにして跨がりかける。

入る前に、彼が私の腰を止めた。

「ベッド」

私はうなずいた。 歩く距離さえ、長く感じた。

ベッドに膝をつく。 後ろから腕を回される。 ブラウスが残り、ブラだけ外される。 胸を掴まれる。 乳首を指で転がされる。

「んっ……」

前へ倒れそうになる。 久我が腰を引き寄せる。 先が当たる。 入ってくる。 奥まで、一度で埋まった。

「あっ……奥、すごい」

声が割れる。 後ろから突かれる。 ゆっくりなのに、当たる場所がはっきりしている。

久我の手が腹を回って、クリトリスへ落ちる。 中と外が同時に動かされる。

「だめ、そこ……声、出る」

抑えられない。 腰を掴まれて、リズムが速くなる。 水音が立つ。 自分の声が、部屋に残る。

抜かずに、横へ倒される。 脚を重ねたまま、横向きで突かれる。 角度が変わる。 さっきと違う場所に当たる。

「んあっ……今の」

言葉にならない。 久我が耳の後ろに唇をつけたまま、腰を送る。 クリトリスから手が離れない。 私はシーツを掴み、自分からも後ろへ腰を押しつけた。 大胆になっているのが、分かっていた。

止める理由を、身体がもう受けつけていない。

仰向けに返される。 正常位。 正面から入ってくる。 久我の顔が近い。 目を逸らさない。 逸らすと、自分が何をしているのか見えすぎる。 見えるまま、受けた。

ピストンが深くなる。 そのたびに、指がクリトリスを擦る。

「いく……」

「いけ」

腰が浮く。 自分から擦りつける。

「はあっ、そこ、だめ、気持ちいい……」

声が大きくなる。 はしたないと思った。 思ったまま、もっと开いた。

絶頂がきた。 中が何度も締まる。 視界が一瞬、白くなった。

久我が抜ける。 腹の上へ出る。 熱い。 脈打っているのが、肌に伝わる。

私は手を伸ばして、根元から先へ絞るように動かした。

残りの熱が、指の間を伝う。 久我の息が、低く落ちる。 その音だけ聞いて、私はしばらく指を止めなかった。

身体が重なる。 濃いキスが来る。 もう確認ではない。 残っている熱を、口の中で分け合うようなキスだった。 腕の中で、呼吸が揃っていく。 しばらく、誰も喋らない。

「シャワー行こう」

久我が言った。 私はうなずいた。 湯を出す。

狭い空間に、二人で入る。 久我は何も問い詰めない。 説明も求めない。

背中を洗い、肩を洗い、髪に指を通す。 仕事の話も、名前のことも、ここでは出てこない。 ただ、熱い水と、掌だけがある。

久我が先に上がる。 タオルを肩にかけて、扉の外へ出る。 私だけが残った。 湯が顔を伝う。 目を閉じる。

しばらく、何も考えられなかった。 少しして、さっきまで自分が何をしていたのかが戻ってきた。 私は片腕で目元を覆った。

最悪。 本当に。

もう会わないつもりだった。 今日は話をするだけだった。 何か分かれば、それで帰るつもりだった。 全部、自分で考えたことだ。 なのに。

「玲奈」

久我の声がする。

「何」

「大丈夫?」

私は腕をどけた。 久我を見る。

「……大丈夫」

悔しいけれど。 それは本当だった。

シャワーから出て身体を拭く。 バッグの中でスマホが震えた。

仕事関係の通知だった。

画面に表示された文字を見た瞬間、現実が一気に戻ってくる。

私は身体を起こした。 明日になれば、また私は麻薬取締官だ。 久我の名前が載った資料を見る。 何も知らない顔をして仕事をする。

そのことを考えると、胃の奥が冷たくなった。 でも。

もっと嫌だったのは。 今日ここへ来た理由について、もう自分へ嘘をつけなくなったことだった。

久我に呼ばれたから来たんじゃない。 情報を確認したかったからでもない。

私は、自分で会いに来た。 この男に触れてほしかった。 それを認めた瞬間。

たぶん私は、本当に落ち始めた。